バイオテクノロジーで環境汚染を検出

環境物質科学研究分野 乾 秀之

環境汚染と分析方法

 私たち人類は、空気や食品などを介して知らず知らずのうちに多種多様な化学物質を体内に取り込んでいます。その中には有害なものが含まれている可能性があり、例えば、ダイオキシン類や内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)、残留農薬等がそれにあたります。中でもダイオキシン類は化学的に非常に安定な化合物で微生物などにより分解されにくく、油に溶けやすい性質を持つため、生物濃縮により食物連鎖の頂点の動物に高い濃度で蓄積していきます。高濃度になると発がん性などの毒性があり、これら環境汚染物質がどこにどれだけ存在するのかを知ることはとても重要です。現在、この分析には数千万円から1億円するような高額な機器を用いますが、1サンプルあたりのコストが高く(約10万円)、多くの地点について汚染状況を正確に知ることは現実的にできません。そこで私たちは、動物のいいところ、植物のいいところをバイオテクノロジーという手段を用いて融合させ、新しい分析手法の開発に挑んでいます。

動物のいいところと植物のいいところの融合

 動物は生命の維持に必要のない物質を異物と認識し、処理するメカニズムを高度に発達させてきました。ダイオキシン類や環境ホルモン類と結合するタンパク質(受容体)はそのようなメカニズムの中でも最も重要で、細胞内で汚染物質が受容体と結合するとその信号が特定の遺伝子の転写を引き起こし、様々な反応を引き起こします。すなわち、これら受容体はダイオキシン類や環境ホルモン類の毒性を決定する重要な働きをしているといえます。
 一方、植物は生命の維持に必要な栄養分を根を通して広い範囲から吸収し、蓄積、利用することができます。これは、栄養分に限ったことではなく、それに類似した化学物質全般を根を通して吸収、蓄積します。植物が育っている土に汚染物質が存在するとそれらも吸収します。
 すなわち、動物のいいところ(受容体)と植物のいいところ(化学物質の吸収)を活かすために、私たちは遺伝子工学(バイオテクノロジー)的手法を利用して動物の受容体を植物に導入することを考えました。このような遺伝子組換え植物では、植物の力により体内に吸収、蓄積した汚染物質が、細胞内で作られた動物由来の受容体と結合します。その結合したという信号をレポーター遺伝子の発現という形で表現できるようにデザインします。

遺伝子組換えタバコによるダイオキシン汚染の検出

 私たちの研究の場合、このレポーター遺伝子として青色色素を合成する酵素を用いました。ダイオキシン類で汚染した土壌でこの遺伝子組換えタバコを栽培すると、汚染していない土壌で栽培したときに比べ、ダイオキシン類の作用で見られるレポーターの活性が明らかに高くなっています。すなわち、当初のデザイン通り、この遺伝子組換え植物はダイオキシン類の汚染を知らせてくれたわけです。
このように、動物と植物のいいところを互いに活かせば、環境と人の健康をまもる新たな技術を創造することができます。

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