神戸大学ヒト腸管モデルの紹介

神戸大学大学院農学研究科

食の安全・安心科学センター

Research Center for Food Safety and Security,
Graduate School of Agricultural Science,
Kobe University

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ヒト腸管モデルを利用した食品成分の機能性・安全性評価

更新日 2016-09-28

平成27年4月より我が国で施行された新・機能性表示制度によって、いわゆる健康食品をはじめとする保健機能を有する成分を含む加工食品及び農林 水産物についても、その有効性について科学的根拠を示せれば、新たな機能性食品として、企業の責任で機能性表示ができるようになりました。その科学的根拠を得る方法として、①最終製品を用いた臨床試験あるいは②最終製品又は機能性関与成分に関する研究レビューのいずれかを実施して有効性を明らかにする事とされています。前者については原則として特定保健用食品の試験方法に準じて、研究結果をまとめた論文を作成し、第三者がしっかりと掲載審査をする(査読という)学術誌に投稿して載ることが要件とされ、これには異を唱える余地はありません。後者については「既存の論文を集めてまとめて解析するシステマティック・レビューを実施して、効果があるかどうか判断する」とされていますが、我が国における既存の食品成分の機能性は、in vitro実験あるいは動物実験から得られた知見に基づいて「推察」されたもので、ヒトにおいて、特に健常者についてその効果が実証されていない場合が多々あります。また、既報の学術論文、口頭発表、ポスター発表等の中には、実際にヒトへ経口投与可能な濃度や菌数を遥かに越えて「現実離れ」した条件で機能性評価しているものもあります。実験動物の遺伝的背景や生理から腸内フローラの構成や腸内内容物の腸内滞留時間等までをも含むパラメータはヒトのそれと相当異なるので、実験動物等を使用して得られた知見もヒトの腸内の状況を必ずしも反映するものでありません。すなわちin vitro実験、動物実験で評価された機能性がそのままヒトに発揮される保証はありません。だからと言ってヒト臨床試験をしようにも、その実施に係る安全面、倫理的配慮へのハードルが高すぎるのでなかなか実施できないのが現状です。この状況に鑑み、我々は腸内の生理・物理環境およびヒト腸内フローラによる当該食品成分の機能性・安全性の「加減乗除」を十分に考慮した、より包括的で実践的な評価システムとして、下記の2つのin vitro試験系を組合わせることで、ヒト腸内環境を模した、いわゆる「腸管モデル」システム(Kobe University Human Intestinal Model [KUHIM])を構築しました。その概要は下記の通りです。

(1)免疫系腸管モデル:

当該機能性食品素材あるいはその代謝産物等が直接あるいは腸管上皮細胞を介して免疫担当細胞にどのような免疫学的影響をもたらすのかを腸管関連リンパ組織を模した系でのin vitro(上層はCaco-2細胞を単層培養して腸管上皮様にして、下層にはマクロファージ様に分化させた細胞を培養して腸管関連リンパ組織を模した系:例えばTranswell®)実験で解析する。

(2)培養系大腸フローラモデル:

複数個々人由来の腸内細菌叢環境を再現し、その中に投与された当該機能性食品素材の経時的な代謝変換、腸内細菌叢構成、代謝産物等を解析する。具体的には個々人の糞便の細菌叢の構成を維持した凍結乾燥物や凍結培養スターターを少量培養槽に添加し、培養槽を嫌気的な大腸を模した環境にして、一定時間培養します。培養中は経時的に内容物を少量取り出して、LC/MS, HPLCによる対象物質の分解、変換等のメタボロミクス解析、qPCR、次世代シークエンサーによる細菌叢の変化の検知、メタゲノム解析も行う(特許出願中)。

 RCFSSでは、特に(2)培養系大腸フローラモデルに注力しています。
 国外には培養系ヒト腸管モデルとして、既にSHIME(ベルギー・ゲント大学)およびTIM(オランダ・TNO)といったシステムがあるが、いずれも外観と機構上はヒト消化管を疑似しているものの腸内フローラや産生される短鎖脂肪酸等の構成パターンの再現には至っていません。一方、 KUHIMのコンセプトは、当該機能性食品成分と腸内の物理化学的環境、腸内細菌叢、そして腸管細胞との相互作用を個別に調べるところに力点があ り、嫌気環境における複合高密度培養をコントロールしてヒトの腸内環境(絶対嫌気性細菌優勢、菌種レベルでの多様性、難培養細菌の増殖、産生される短鎖脂肪酸等の構成パターン等)を正しく再現していること、当該成分の変化を追跡する機器分析、すなわち種々クロマトグラフ、質量分析、NMR 等々が充実している点、個々人の糞便培養液を複数の凍結(乾燥)アンプルとしてストックして何度でも同様の試験が再現できること、さらには小型かつ複数の培養槽を備えた培養槽システムで一度に多項目の試験ができることに優位性があります。

 上記の特性によってKUHIMは下記のような知見を得る事を可能とします。

○単体あるいは複数の機能性成分候補を添加してヒト腸内の経時的な細菌叢の構成の変化、代謝産物(主に有機酸等)および添加した成分の量・質的変化の予測

○分子量が1万以下で経口摂取した場合は通常胃、小腸にて速やかに吸収され体内に入る機能性成分、すなわちヒト大腸内までは到達しないとされる機能性成分が大腸内に流入した場合、あるいは腸溶性カプセル等を用いて意図的に大腸に流入させた場合に起こり得る腸内細菌叢の細菌叢代謝産物(主に有機酸等)の構成および添加した成分そのものの量・質的変化の予測

○特定のヒトの糞便サンプルを使った場合のみにある食品成分が細菌の働きによってヒトの健康維持や疾病予防等に資する成分活性物質となることがわかった場合は、当該の作用する細菌株を特定・分離してこの菌株をプロバイオティクスとしてあるいは当該活性物質を効率よく生産する「種菌」としての利用

 KUHIMを利用した食品成分の機能性・安全性の評価システムを用いて種々の機能性食品成分候補の機能性・安全性を「プレ」評価し、この評価に基づき選択された候補のみをヒトの臨床試験(本試験)に供試することができます。即ちKUHIMは上述の新制度下の市場ニーズに100%応えるシームレスかつ実効する機能性食品素材の開発を行うプロセスイノベーションを創成するものと考えています。

参考文献:
1) Koeth RA. et al.: Nat Med. 19 (2013) 576-585
2) Suez J. et al.: Nature. 514 (2014) 181-186
3) Hayashi T. et al.: BMFH, 31 (2012) 27-36
4) Hayashi T., et al.: J Intest. Microbiol. 27 (2013) 151-158
5) Kishimoto M. et al.: BMFH 34 (2015) 11-23
6) Uchiyama S. et al.: J Intestinal Microbiol. 21 (2017) 217–220

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