平成27年4月より我が国で施行された新・機能性表示制度によって、いわゆる健康食品をはじめとする保健機能を有する成分を含む加工食品及び農林 水産物についても、その有効性について科学的根拠を示せれば、新たな機能性食品として、企業の責任で機能性表示ができるようになりました。その科学的根拠を得る方法として、①最終製品を用いた臨床試験あるいは②最終製品又は機能性関与成分に関する研究レビューのいずれかを実施して有効性を明らかにする事とされています。前者については原則として特定保健用食品の試験方法に準じて、研究結果をまとめた論文を作成し、第三者がしっかりと掲載審査をする(査読という)学術誌に投稿して載ることが要件とされ、これには異を唱える余地はありません。後者については「既存の論文を集めてまとめて解析するシステマティック・レビューを実施して、効果があるかどうか判断する」とされていますが、我が国における既存の食品成分の機能性は、in vitro実験あるいは動物実験から得られた知見に基づいて「推察」されたもので、ヒトにおいて、特に健常者についてその効果が実証されていない場合が多々あります。また、既報の学術論文、口頭発表、ポスター発表等の中には、実際にヒトへ経口投与可能な濃度や菌数を遥かに越えて「現実離れ」した条件で機能性評価しているものもあります。実験動物の遺伝的背景や生理から腸内フローラの構成や腸内内容物の腸内滞留時間等までをも含むパラメータはヒトのそれと相当異なるので、実験動物等を使用して得られた知見もヒトの腸内の状況を必ずしも反映するものでありません。すなわちin vitro実験、動物実験で評価された機能性がそのままヒトに発揮される保証はありません。だからと言ってヒト臨床試験をしようにも、その実施に係る安全面、倫理的配慮へのハードルが高すぎるのでなかなか実施できないのが現状です。この状況に鑑み、我々は腸内の生理・物理環境およびヒト腸内フローラによる当該食品成分の機能性・安全性の「加減乗除」を十分に考慮した、より包括的で実践的な評価システムとして、下記の2つのin vitro試験系を組合わせることで、ヒト腸内環境を模した、いわゆる「腸管モデル」システム(Kobe University Human Intestinal Model [KUHIM])を構築しました。その概要は下記の通りです。 (1)免疫系腸管モデル: 当該機能性食品素材あるいはその代謝産物等が直接あるいは腸管上皮細胞を介して免疫担当細胞にどのような免疫学的影響をもたらすのかを腸管関連リンパ組織を模した系でのin vitro(上層はCaco-2細胞を単層培養して腸管上皮様にして、下層にはマクロファージ様に分化させた細胞を培養して腸管関連リンパ組織を模した系:例えばTranswell®)実験で解析する。 (2)ヒト腸内細菌叢モデル(Kobe University Human Intestinal Microbiota Model [KUHIMM]): 複数個々人由来の腸内細菌叢環境を再現し、その中に投与された当該機能性食品素材の経時的な代謝変換、腸内細菌叢構成、代謝産物等を解析する。具体的には個々人の糞便の細菌叢の構成を維持した凍結乾燥物や凍結培養スターターを少量培養槽に添加し、培養槽を嫌気的な大腸を模した環境にして、一定時間培養します。培養中は経時的に内容物を少量取り出して、LC/MS, HPLCによる対象物質の分解、変換等のメタボロミクス解析、qPCR、次世代シークエンサーによる細菌叢の変化の検知、メタゲノム解析も行う(特許出願中)。 | ||