Intergenomics Seminarセミナーと勉強会

第22回 インターゲノミクスセミナー
「トランスポゾン!」

講演タイトルと講演者

「トランスポゾンはこ~んあことやあ~んなこともしている」
古賀 章彦氏(京都大学 霊長類研究所 ゲノム多様性分野)
「ほ乳類の胎盤形成におけるレトロトランスポゾンの役割」
宮沢 孝幸氏(京都大学 ウイルス研究所 信号伝達学研究分野)

世話人より

 第22回インターゲノミクスセミナーが、平成24年12月21日(金)15時10分より農学部B401で行われました。今回のテーマは「トランスポゾン!」ということで、京都大学からメダカやテナガザルを用いたトランスポゾンの研究をされている古賀先生と、ウイルス学的知見に基づいてレトロトランスポゾンの研究をされている宮沢先生のお二方に、「動く遺伝子」であるトランスポゾンについて講演して頂きました。年末の開催にもかかわらず、多くの方に参加して頂き、活発な議論が行われ,大変有意義な会となりました。

 古賀先生には、まず、トランスポゾンについての概念を分かり易く説明して頂いた後、「トランスポゾンが起こした完全犯罪」を暴いた実験や、「巨大反復配列に仕掛けられた時限爆弾(?)」を見つけた実験について講演して頂きました。先生はトランスポゾンが挿入される事により起こされる変異ではなく、抜ける事によって起こされる変異もある可能性に着目し、メダカの交配実験による体色変化とその遺伝子構造変化からトランスポゾンの足跡を追うことに成功されました。さらに、種が多いことで知られているテナガザル間でセントロメアの巨大反復配列構造を比較し、トランスポゾンの挿入等による長期にわたる反復配列構造変化を発見され、この構造変化のテナガザルの多様な種分化への関与の可能性についても示唆されました。また、トランスポゾン研究者にお薦めのお手軽実験グッズの紹介もして頂きました。

 次に、宮沢先生には、生物の進化と内在性レトロウイルス(レトロトランスポゾン)との関わりをダイナミックに講演して頂きました。「そのウイルス複製機構の特徴から考えて、少なくとも4億年程前から存在していると考えられているレトロウイルスが、生物の進化に関与しない訳がない。」という観点から、先生は、特に、ほ乳類のみが有している胎盤の形成、多様な進化の過程において、どのようにレトロトランスポゾンが関与して来たのかを、様々なほ乳動物の遺伝子上にあるレトロウイルスの痕跡を元にして追求しておられます。今回は胎盤形成過程におけるレトロトランスポゾンの関与についてだけでなく、全く異なるいくつかのウイルスのエンベロープが同じレトロトランスポゾンに由来している可能性についての報告や、内在性レトロウイルスが何らかの要因で外来性レトロウイルスとなりテナガザルに感染し感染性を発揮した事例等について紹介して頂き、レトロトランスポゾン研究の魅力が伝わったのではないかと思います。

講演者からのコメント

古賀 先生

 交通網などの発達で学会にも簡単に行ける時代となりました。つい先日も分子生物学会があったばかりです。メデイアの発達で必要な情報もすいすい手に入るようになりました。たとえば論文も、著者名とキーワードを入れるだけですぐに、画面に一覧表が出ます。そんな中ご指名で呼んでくださるのですから、実のある内容にしなければ申し訳ないとの思いで準備をし、出席しました。講演や出版物では得にくい情報もわかりやすく提供し、そして議論を深めていただこうと、悲壮な覚悟をして。
 トランスポゾンは、ホストにとって有益な変異をもたらしますし、同時に害も及ぼします。でもどうしても、たとえ冷静沈着な研究者でも、効果の大きいものについつい目が行き、微小な効果は忘れがちになります。微小な効果という一面の再認識となることを願い、例をあげて説明をさせていただきました。ゲノムの進化への貢献は、華やかな効果に総量として引けを取らないという可能性も、十分あります。この考えがみなさんに正確に伝わったことを、教室での質疑応答、さらには六甲道での懇親会を通して、実感しました。
 トランスポゾンが創出する変異には、トランスポゾンが原因であると認識されないものもたくさんあります。それでもトランスポゾンは黙々と動いています。私もインターゲノミクス研究会でトランスポゾン役を果たせたことを、願う次第です。

宮沢 先生

 この度は,インターゲノミックスセミナーにお招き頂きありがとうございました。動物のレトロトランスポゾンの話をするということだったのですが、少しずれてしまったかも知れません。太古の昔に流行していた外来性のレトロウイルスが動物の生殖細胞のゲノムに組み込まれることにより、新しい機能を獲得する場合があるということをご理解いただけたら幸いです。
 インターゲノミックス研究会のメンバーには、植物の研究をされている方が多いと言うことで、セミナー前に植物のトランスポゾンの総説を読みました。トランスポゾンによる進化は、植物の方が哺乳動物よりもドラスティックだと思いました。
 私の前に発表された古賀先生のご発表や懇親会での皆様のお話もいろいろ参考になりました。ありがとうございました。

(世話人:藍原祥子・松尾栄子)