(3) 腸管外病原性大腸菌(ExPEC)における病原因子の特定に資する研究



1. 鶏大腸菌症の疫学マーカーとなる遺伝子に関する研究

fig1   鶏大腸菌症は、Avian pathogenic Escherichia coli (APEC)によって引き起こされる我が国で最も発生の多い鶏の細菌感染症であり、その症状としては最も多発し被害の大きな敗血症をはじめ、小胞炎、出血性腸炎などがこれまでに明らかになっています。中でも、小胞炎については皮下に症例が見られる事から、飼育時や屠殺場への移動時では発症していると気付かず、屠殺し、解体する段階で感染している事が明らかになるため、養鶏産業に重大な経済的損失を与えており、家禽業者が最も嫌っている感染症となっています。
 このAPECは本来の生息部位である腸管以外の臓器に侵入し、多くの感染症(異所性感染)引き起こす事から、腸管外病原性大腸菌(Extraintestinal pathogenic E.coli :ExPEC)の一種とされています。このExPECは鶏だけでなく人や様々な動物における大腸菌症に関与しているとされていますが、血清型や遺伝子等、病原性の有無を決定付ける因子については現在のところ明らかになっていません。
 私たちの研究では、病鶏病変部より分離された菌株群と健康鶏糞便より分離された菌株群に対し、PFGEやPCRといった遺伝学的な手法を用いて、病鶏由来株と健康鶏由来株間の遺伝子型の相違や病原性に関与していると報告のあった様々な遺伝子の分布状況等を解析しました。その結果、PFGEでは病鶏、健康鶏由来菌株群間に相違は認められませんでしたが、PCRによる解析ではバクテリオシンの一種であるColicin Vの産生、分泌に関係する遺伝子が病鶏、健康鶏由来株間で保有率に大きな違いが見られ、このColicin Vに関連する遺伝子が病原性に関与している可能性が示されました。(図1)
 しかし、Colicin Vに関する研究は1970年頃から始まり、既に他の研究者によりColicin Vの分泌と病原性とは関連性しないという事や、その遺伝子は染色体上ではなく、プラスミド上にある事等が明らかになっています。これらの事から、病原性にはColicin Vに関連する遺伝子ではなく、その周辺に存在する遺伝子が関わっている可能性が考えられます。そこで、私たちは「病原性に関連のある遺伝子がこのColicin Vに関連する遺伝子を含むプラスミド上に存在するのではないか」と考え、以降の研究では、このプラスミド上に存在する遺伝子について更に解析し、疫学マーカーとなる遺伝子を検索していく予定です。



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