極限環境微生物とは


 沸騰した水や今にも凍ってしまいそうな水の中、酢やアンモニアそれに高塩濃度のプールの中といった環境ではヒトは到底生活することはできないでしょう。しかし、多くの細菌達はそのような人には近づきがたい環境に彼らの生活の場をつくっています。これらの微生物はヒトにとて有利な状況からは明らかにかけ離れた条件下で繁殖しているために、 極限環境微生物(extremophile) と呼ばれています。驚くべきことに、その生物達の多くは単にそれらの極限環境に寛容なだけではなく、その極限環境が繁殖するために必要な要因となっています。
 いくつかの極限環境微生物については、40年以上前から知られていました。しかし、それらについての調査は最近になって盛んに行われるようになりました。それは、一時は不毛であると仮定していた場所が微生物に富んでいるということが分かったこと、それに、極限環境微生物の持つ 「生き抜くための道具」 が産業の多くの場面で役立つという産業界の理解が原動力になっています。
 産業界が特に興味があるのは、極限環境微生物の極限環境での活動を可能にしている 酵素 (生物触媒)です。タンパク質である合成触媒や酵素といったものは、それら自身を変化させることなく、化学反応の速度を速めます。1998年、生医学分野やその他の世界中の産業が酵素の応用に25億ドル以上の資金を出資しました。その酵素の応用は、人口甘味料や、「ストーンウォッシュド」ジーンズといったものの生産から、犯罪者の遺伝子鑑定や、感染症や遺伝子疾患の診断まで様々です。極限環境微生物の繁殖を可能にしている分子は、産業にとって有益なものになって来ています。
 標準の酵素は熱やその他の極限環境にさらされると働かなくなってしまいます。そして、それらの酵素を使用する製造業者は、反応させたり保存している間そのタンパク質が失われないように特別な段階を踏まなければなりません。 extremozymes と呼ばれる極限環境微生物が産生する酵素は、潜在的にこれらの特別な段階を取り除き、そうすることによって、酵素活性の能率を上昇させ、損失を減少させています。
 アメリカ、日本、ドイツ、その他各国のおそらく20の調査団体が、極限環境微生物とその酵素の調査を現在、活発に行っています。これまでに利用可能になったextremozymesは数種類しかありませんが、その他のものも後に続くのは確かでしょう。標準酵素にも当てはまることですが、新しく分離されたextremozymeを産業にとって有用な産物に変化するためには数年の時間を必要とします。

本文は、「SCIENTIFIC AMERICAN」に掲載された「Extremophile」を参考に作成したものです


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