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神戸大学バイオプロダクション次世代農工連携拠点(iBioK)主催フォーラム編
(2018年度)



平成最後の年の1月31日と2月1日の2日間、神戸大学百年記念館にて、

塾長が世話人を務める学術集会、「腸内から望む先制医療の行方」(プロブラム概要)が開催されました。この集会は塾長が11年の永きに関わってきた文部科学省科学技術振興調整費による神戸大学バイオプロダクション次世代農工連携拠点事業(ibioK)を締めくくるイベントの1つとして開催されました。

寒空の下、北は帯広、南は鹿児島まで実に50以上の企業と19の大学関係者の200名近くもの大勢の方々にご参加頂きました<フォーラム会場パノラマ記念写真>

まずは塾長が世話人として開催のご挨拶と、生活習慣病や高齢化によって膨れ上がる我が国の医療費の問題を少しでも解消するために、また「死ぬまで健康で生きたい」という国民の願いに応えるためには真に実効する機能性食品を以てする先制医療が必須であること。真に実効する機能性食品の開発・上市には我々ヒトの腸内で起こっていることについて十分に理解する必要があること。しかしして、この事について「解っているようで、分っていないこと」はないだろうか?これを議論してみましょう!というフォーラムの趣旨を説明いたしました。

その後に塾長よりも現役の研究者人生の時間がまだまだ沢山ある、塾長よりもず?っとお若い、なのに腸で起こっていることについて目覚ましい研究業績を挙げられている先生方を学外からお招きしてのご講演セッションが始められました。まず「先頭バッター」として東北大学農学研究科の北澤春樹先生に 「プロバイオティクスからイムノバイオティクス:小腸局所からの発信」という演題名でご講演頂きました。 家畜としてのみならず、ヒトモデルとして有用なブタから樹立した小腸上皮細胞株によるイムノバイオティクス評価系構築とその有用性についてご紹介いただきました。

続いては、医薬基盤・健康・栄養研究所の國澤純先生に「腸管ビッグデータから紐解く先制医療の近未来」という演題名でご講演頂きました。脂質やビタミンといった食事、腸内細菌を介した免疫制御に関する基礎研究の成果とその知見を応用した機能性食品やワクチンの開発、創薬などへの応用的展開、ヒトの健康との関連について、取り組まれているビッグデータを活用したリバーストランスレーショナル研究への展開等々、最新の知見をご紹介して頂きました。

続いて大阪学大学院医学系研究科の奥村龍先生より「粘膜バリアによる腸管の恒常性維持機構」についてご講演頂きました。奥村先生がたが近年同定したLypd8という腸管上皮細胞が産生する分子の機能を中心に紹介し、粘膜バリアと炎症性腸疾患の関係性や、粘膜バリアをターゲットとした炎症性腸疾患治療の今後の可能性についてご講述いただきました。

「4番バッター」は東京農工大学大学院農学研究院の木村郁夫先生に「腸内細菌由来短鎖脂肪酸と宿主代謝制御」についてご講演頂きました。腸内細菌代謝産物、短鎖脂肪酸の観点から、その宿主側受容体を介したエネルギー代謝制御機構に焦点をあてた木村先生がたの精力的な研究成果(unpublishedデータを含め)に基ずく最新の知見をご紹介頂きました。

「トリ」はあの「情熱大陸」にもご登場された慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣先生より「メタボロゲノミクスが解き明かす腸内細菌叢機能とその制御」という演題名にてご講演いただきました。「腸内デザインによる病気ゼロ社会」をキーワードに、科学的根拠に基づく食習慣の改善、適切なサプリメント開発や創薬など、腸内環境の適切な修飾による新たな健康維持、疾患予防・治療基盤技術の創出に向けた福田先生研究チームの取り組みについてご紹介いただきました。

夫々の演題に対して会場から篤い質疑、コメントが寄せられました(質疑の様子)

講演セッションの後、5人の講演者の先生に壇上に上がっていただき塾長からの「宿題」、解っているようで分っていない、「ヒトとネズミ」、「大腸と小腸」、「細菌の名前とその機能」について、またテーラーメード医療への展望、バイオインフォマティクスに精通した人材育成の必要等についてこれも篤く公開討論会して頂きました(討論の様子)

1日目終了後、雨空の中、会場近くの瀧川記念館まで移動して「情報交換会」を行いました。飛び入りの方も含め100名以上にご参加頂き、甲南大学教授(徳島大学名誉教授)の寺尾純二先生から開会のご挨拶を有り難く頂きました。御陰様をでものすごく篤い情報交換会となりました。情報交換会後はJR六甲道界隈の塾長「御用達」の居酒屋「魚喰」にてご講演頂いた5名の先生方も含め有志による「反省会」を行いました。

フォーラム2日目はお天気は快復し、百年記念館の入り口付近からは神大自慢の大阪湾岸パノラマが広がりました。

が、かなり冷え込む朝。六甲山ほうに目をやると頂上付近は冠雪していました。

にも関わらず1日目同様沢山の皆様にお運び頂きました。フォーラム2日目では1日目できろんされたようなことがきっかけとなり開発された、食品成分の新規の機能性評価ツール、手前味噌となりますが塾長の研究チームがibioKプロジェクトの一環として開発したヒト腸管モデル、特にヒト腸内細菌叢モデル(Kobe University Human Intestinal Microbiota Model [KUHIMM])の概要と利用例が紹介されました。


まずは本学学技術イノベーション研究科の佐々木建吾先生から「KUHIMMによる食品成分の機能性評価」のご講演を頂き、腸管上部では消化・吸収されず大腸において分解、代謝、変換される難消化性食物繊維等の機能性食品のヒト介入試験に先立つプレ評価がKUHIMMで可能となることが紹介されました。

次に本学医学研究消化器内科学分野の星奈美子先生より「KUHIMMを利用した潰瘍性大腸炎の病態評価の検討」という演題名でご講演頂き、KUHIMMが、潰瘍性大腸炎の客観的かつ非侵襲的な病態の検出ツールとして臨床的に有用である可能性をご提示頂きました。

セッションの最後は本学医学研究科循環器内科学分野の山下智也先生に「KUHIMMを用いた動脈硬化性疾患の予防法の探索」についてご講演頂き、「ヒト大腸細菌叢モデルを用いて、動脈硬化性疾患の予防につながるような腸内細菌叢をどのようにつくることができるのか?」という取り組みについてご紹介頂きました。


フォーラム最後のご講演は「特別講演」という形で株式会社グローバルニュートリショングループの武田 猛社長に「機能性表示食品制度における機能性及び安全性の評価内容等の実態」についてご講演いただき、これまでに届出されている機能性表示食品の安全性、機能性に関する情報と、消費者庁の検証事業の結果から機能性表示食品の実態について細部にわたりご紹介いただきました。「機能性表示食品」の制度についてもなんとなく「解っているようで、分っていない」ことがあるのでは?感じた方も多いのではないでしょうか?

2日目も各講演後に篤い質疑応答が繰り広げられました(質疑の様子)。御陰様を持ちましてフォーラムは盛会をもって完了することができました。皆様にも何か「解っているようで、分っていない」ものはございませんか? もしございましたらアンデルセンの有名な童話「裸の王様」に登場する少年のようにご提示頂き、これを皆様の職場や研究室、また学会会場にて大いに議論して頂けたらさらに幸甚に存知ます。これだけでも我が国のサイエンスのレベルが格段に上がると思います。

フォーラムの終わりにibioKの近藤昭彦拠点長より閉会のご挨拶とibioKのスピンオフとして設立された「一般社団法人先端バイオ工学推進機構」についてご紹介頂きました。塾長もこの財団に参加して「動物実験に依らない食品成分の機能性評価法の検討」する産学分科会の設立、運営に取り組んでゆく予定です。この機構の今後の進展にご注目ください。