(1)タンナーゼ産生性乳酸菌に関する研究



fig1  これまでタンナーゼ(tannase)活性を示す細菌群は、コアラをはじめとしてウマ、ヤギやヒツジといったタンニンに富む植物を餌としている哺乳動物の腸管や糞便から高頻度に分離されてきました。タンニンは食物に含まれる蛋白質と強く結合し、動物の消化作用では分解しにくいことから、これらの細菌群は草食動物の消化管内でタンニンの消化を手助けしているのではないかと考えられています。
 最近になって我々は、タンナーゼ活性を示す乳酸菌Lactobacillus plantarum をヒトの糞便から分離しました(図1)。その後の我々の研究により、タンナーゼ活性を有する乳酸菌は、ぬか漬けやキムチなどの発酵食品を摂取することによりヒトに取り込まれることが推測されました。また実際にこれらの発酵食品より、タンナーゼ活性を持つ乳酸菌を多数分離し、分子生物学的手法を用いて詳細な分類、同定を行いました。L. plantarumグラム染色像その結果、タンナーゼ活性を有する乳酸菌群としてL. plantarumL. paraplantarumL. pentosusL. gasseriPediococcus acidilacticiP. pentosaceus が同定され、タンナーゼ活性は乳酸桿菌科に広く分布した表現型である可能性が示唆されました(派生した論文1)。また従来の方法では測定が困難であった細菌生菌体のタンナーゼ活性定量法を確立し(派生した論文2)、これら細菌群のタンナーゼ活性は菌株ごとにその強弱がさまざまであることを明らかにしました。さらに、タンナーゼ活性を有する乳酸菌のほとんどが没食子酸脱炭酸酵素(GDase)活性を有しており、タンニン代謝の最終産物にはピロガロールが生成することが分かりました(図2)。

fig2

 コアラなどのようにタンニンに富む食物を摂ることのないヒトでは、これらタンナーゼ産生性乳酸菌群がタンニンの消化に重要な役割を果たすことはないと考えられます。では、これらの乳酸菌群はヒトの腸内でどのような役割を担っているのでしょうか?ヒトが摂取する食物、特に野菜や果物など植物性のものにはポリフェノールが豊富に含まれています。これらポリフェノールの中には、タンニン様構造(没食子酸エステル)を持ちタンナーゼによって分解されるものが存在します(図3)。fig3このような構造をもつポリフェノールのうち、我々日本人が最もよく口にするものの1つは緑茶に豊富に含まれるカテキンです。茶カテキンは、培養細胞や実験動物を用いた研究から数々の薬理効果が報告されていますが、それらは主に茶カテキンが有する抗酸化活性に由来しています。茶カテキンのなかでもエピガロカテキンガレート(EGCg)は、緑茶に含まれる全カテキン量のおよそ50%を占め、さらに抗酸化活性にも優れているため最も注目を集めています。じつは茶カテキンのうち、このEGCgとエピカテキンガレート(ECg)が、タンナーゼによって分解されるのです。
 近年、茶カテキンの吸収や代謝、また抗酸化活性やその他の効能について盛んに研究が行われていますが、腸内に存在するこのような細菌群による代謝、またそれに付随する薬理効果への影響はほとんど調べられていないのが現状です。現在我々は、タンナーゼ産生性乳酸菌が茶カテキンの薬理効果に及ぼす影響に着目し研究を行っています。





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