いざ腐植の研究を始めようと思っても,腐植試料をどうやって得たらいいのかがよくわかりません。
もちろん,市販の腐植酸(Aldrich,Wako,Nakarai社製など)を手に入れることもできるのですが,これら市販のモノは何からどうやって得られたモノなのかが各社とも不明です。また,ロットが違うと性質が異なる,土壌や水質から得た腐植酸とずいぶん性質が異なるなどの多くの問題があることから,腐植研究者の多くが目的を限定して使用すべきであるとの見解をしめしています。
その一方で,腐植研究者の多くが腐植試料の調製にさまざまな方法を採用し,さまざまなオリジンから試料を得て研究発表を行ってきました。つまり,研究者ごとに異なった腐植試料をもちいて研究をおこなってきたことになります。これでは,腐植物質について統一的な理解を得ることが難しくなってしまいます。国際腐植物質学会(IHSS)ではこの問題を解決するために国際法(IHSS法)を定め,この方法を推奨するとともに特定のオリジンをもつ腐植試料を標準試料として頒布しています。ただし,こうして得られた試料は非常に貴重なものであるために年に100mgまでしか購入できません。予備検討やいろいろと研究をおこなうには少なすぎるために,結局各自で調製し,これらの標準試料は最終段階でリファレンスとして使用することになります(HSSでもそのような使用目的での頒布を前提としています)
そこで,一般的な腐植試料の調製方法をいくつか掲げておきます。腐植試料を得るためには抽出・濃縮・精製などの過程が必要となりますが,オリジンによって調製法は異なりますので,ここでは代表的な土壌と河川や湖水などの水からの調整法を幾つか揚げます。いずれの場合でもそのオリジンの性質(土壌の種類や一般的な性質など)が後の研究結果を大きく左右する可能性がありますので,その点にも注意が必要です。
IHSS法
風乾細土に10倍量の0.1M塩酸を加えて1時間振とうし,デカンテーション(遠心分離)で上清を除去した後,土壌を小量の1M水酸化ナトリウムで中和する。0.1M水酸化ナトリウム*を土壌の10倍量加え,4時間窒素雰囲気中で振とう抽出し,遠心分離して腐植抽出液を得る。抽出液は6M塩酸でpH1として,12~16時間後に遠心分離して沈殿部(腐植酸画分)と上清液(フルボ酸画分)を分離する。沈殿部は窒素雰囲気中で0.1M水酸化カリウムに溶解し,塩化カリウムを0.3M相当量添加し,遠心分離して不溶性不純物を除去する。溶液を塩酸で酸性(pH1)として12~16時間後に遠心分離しする。得られた沈殿に0.1M塩酸と0.3Mフッ化水素酸を加えて懸濁し,室温で一夜振とう後遠心分離して上清液を廃棄する。この処理を上澄液の灰分含量が1%以下になるまで繰り返した後,透析し,凍結乾燥して腐植酸試料とする。腐植酸を分離した際の上清液(フルボ酸画分)と0.1M塩酸処理の上清液をあわせてXAD -8**樹脂カラムに吸着させる。水洗後,0.1M水酸化ナトリウムで溶出し,6M塩酸でpH1にした後,0.3M相当量のフッ化水素酸を加えて処理し,再度XAD-8に吸着させる。水洗後0.1M水酸化ナトリウムで溶出し,H+型のカチオン交換樹脂を通過させる。凍結乾燥してフルボ酸試料とする。
* : IHSS法では石灰質土壌を想定して塩酸処理と水酸化ナトリウムによる抽出をおこなっているが,日本の土壌では0.1Mピロリン酸ナトリウムと0.1M水酸化ナトリウムの1:1混合液で抽出するのがよいとされている。
** : XAD-8(アンバーライトは現在製造中止のため,代替商品であるDAX-8が用いられている。その他,PVPも使用可能であるが,若干得られる試料の性質は異なる。