原子力間顕微鏡(AFM)による
金属疲労メカニズムのナノオーダ評価

 一般に金属疲労は (i) 結晶すべりが集中する ”すべり帯” の形成、 (ii) すべり帯における入込み・突出しの形成(図1)、 (iii) 入込みから鋭いき裂への遷移、(iv) き裂の伝ぱ、(v) 最終破壊、 の過程を経ることが知られています。

 このうち、き裂の伝ぱと最終破壊条件は、 破壊力学によって解析することが可能となっています。 しかし、き裂が発生するまで(i〜iii)の寿命は、 疲労破壊寿命の大半を占めることも多いにも関わらず、 その力学条件や詳細なメカニズムには今なお不明な点が多いため、 き裂発生寿命の予測は難しいのが現状です。
入込みと突出し
図1 入込みと突出しの形成

 従来の疲労の研究では、光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いた疲労過程の観察が行われてきました。 しかし、光学顕微鏡では試料深さ方向の情報を得ることが出来ないため、 入込み深さの測定が不可能でした。 また電子顕微鏡観察には試料の切断が必要なため、 一つの入込みの発達過程を継続的に観察することが出来ませんでした。

 本研究では、試料表面の凹凸をナノオーダの分解能で測定できる 原子間力顕微鏡(AFM: Atomic Force Microscope)を用いて、 入込み発達過程の精密な測定を行うとともに、 入込みからき裂への遷移条件について検討しています。

 図2はα黄銅における入込み周辺のAFM像の例です。

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AFM測定例

図2 AFMによる測定例(α黄銅)

 図3は、α黄銅において測定された入込み深さと応力繰返し数の関係の一例です。 ここではおよそ繰返し数N=100000の時点で、 同関係の勾配が急激に増加しており、 入込みからき裂へと遷移したことを示しています。 入込み深さ
図3 応力繰返しに伴う入込み深さの変化(α黄銅)

 図4は、α黄銅におけるすべり量(注1)と応力繰返し数の関係を、 多くのき裂についてプロットしたものです。 どのき裂の場合も、勾配の急増点、すなわち入込みからき裂への遷移点において、 すべり量がほぼ一定値380nmとなっています。 この結果から、入込みからき裂への遷移条件が、 すべり量一定条件として決まっていることが明らかとなりました。
 またこの遷移すべり量は、曲げ疲労でもねじり疲労でも同じ380nmとなり、 負荷形式に依存しない量であることも判明しました。
  (注1)入込み最深部の結晶面の(不可逆的な)すべり量
すべり量
図4 すべり量の変化とき裂への遷移条件(α黄銅)

 高強度鋼ならびにステンレス鋼についても検討を進めていますが、 α黄銅と同様に、入込みからき裂へと遷移する時のすべり量は、 それぞれの材料ごとにほぼ一定となる傾向が得られています。

 現在、以上の結果をもとにして、 き裂への遷移すべり量が一定となるメカニズムの解明、 さらにはき裂発生シミュレーション実現に取り組んでいます。

※ 関連テーマ: 金属疲労の初期損傷過程の結晶塑性シミュレーション
          金属ガラスの疲労および破壊特性の評価と破壊メカニズムの解明
          金属薄膜および細線の疲労特性評価