金属疲労の初期損傷過程の
結晶塑性シミュレーション

 金属材料の疲労破壊寿命は、疲労き裂が発生するまでの期間と、 き裂が伝ぱして最終破壊するまでの期間とに分けられます。 このうちき裂発生寿命は、全寿命の大半を占めることが少なくないにも関わらず、 その予測は困難なのが現状です。

 一般に疲労き裂の発生は、 (i) 結晶すべりが集中するすべり帯の形成、 (ii) すべり帯における入込み・突出しの形成(図1)、 および (iii) 入込みから鋭いき裂への遷移、 の過程を経ることが知られています。
入込みと突出し
図1 入込みと突出しの形成

 本研究ではこのき裂発生過程を、 すべり変形の解析が可能な結晶弾塑性FEMシミュレーションで再現することによって、 疲労き裂発生寿命の予測を目指しています。
 その初期段階として、 Peirceらによる結晶塑性構成式を基礎に、 林転位がすべり変形の障害となる材料硬化モデルを組み込んだFEMコードを開発し、 銅単結晶の疲労初期における繰返し変形挙動の解析を行いました.

 図2のように、部分的に幅がわずかに変化(1%未満)する平板に、 Asaroの平面ニすべり系モデルを適用し、 引張圧縮の両振り繰返し負荷(公称ひずみ振幅一定)を与えました。
 図3は、繰返し数 N=400サイクルの最大引張り負荷時について得られた、 結晶すべり変形によって生じたせん断ひずみの分布を示しています。  繰返し変形の初期は、すべり変形が板のどの部分でもほぼ均一でしたが、 繰返しサイクル数が増えると、図3の赤い帯状の部分にすべり変形が著しく集中し、 すべり帯の形成に近い挙動を再現できています。
解析条件

図2 解析した問題
累積せん断ひずみ分布

図3 すべりによるせん断ひずみの分布
  (繰返し数N=400サイクル)

 図4は、繰返しすべり変形の1サイクル中に発生した 最大せん断ひずみと最小せん断ひずみの大きさを、 繰返しサイクル数 N に対してプロットしたものです。
 N=250付近までは最大せん断ひずみと最小せん断ひずみの大きさがほぼ等しく、 可逆的な繰返しすべり変形が生じているのに対し、 N=250を越えると最大せん断ひずみと最小せん断ひずみの大きさに差が生じています。

 この結果は、疲労の進行にともない、 引張り負荷時に生じたすべり変形が圧縮負荷時に戻り切らず、 不可逆なすべり変形が残ることを表しています。 これがさらに蓄積することによって図1のような入込み・突出しが 形成されると考えられます。
不可逆ひずみ
図4 繰返しに伴う不可逆ひずみの発生

 現在、結晶塑性解析に転位の相互作用効果を組み込むことによって、 疲労特有の転位構造を再現し、き裂発生シミュレーションへと発展させるべく取り組んでいます。

※ 関連テーマ: 原子間力顕微鏡(AFM)による金属疲労メカニズムのナノオーダ評価