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サラブレッド系統に認められる断続平衡パターンの解析とモデル
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エルドリッジらは化石記録に基づき、生物の進化が、急激な適応放散・絶滅と静穏期によって進行すると唱えた。こ の主張は近年、バクらによって自己組織臨界現象(SOC)の文脈でモデル化され(BSモデル)、SOCのミニマルモデ ルとして流行している。我々は、(1)断続平衡進化の妥当性を人為陶汰(サラブレッドの系統)でさえ確認できることを 示し、各系統の存続時間分布などがいずれも指数2のべき分布に従い、化石種寿命頻度のべき分布などとも、指数 に関して一致することを示した。(2)さらに、時間面を前提とするBSモデルの問題点を乗り越えるべく、時間ずれを伴 って進行する種間相互作用を、デジタル(状態)とアナログ(写像)のインターフェースとしてモデル化した。(3)系統パ ターンの断続平衡的振る舞いを、観察者から見て不定な、育種家(人為淘汰の駆動力)の知識に求め、変化を駆動 する主要な力自体に潜在する不定性の評価方法を、形式的概念束を用いて解析する方法を考案した。これによっ て、人為淘汰パターンに進化駆動力の不定性、開放性が効いていることを見出した。以下に各論を与える。 (1)人為陶汰では系統の育種家に完全に制御されるため、系統の同時的絶滅は起こり得ないと予想され、漸進的 変化が期待された。しかしサラブレッドの系統を、各系統の存続時間分布、種馬が生産する子数分布、同時に系統 が絶たれるイヴェントサイズ分布に関して調べると、いずれも指数2のべき分布に従っていた。この指数は化石データ のそれとも一致し、高い一般性を有していると考えられる。 (2)相転移臨界現象を説明するBS(Bak & Sneppen)モデルは、断続平衡進化を概してうまく説明するが、第一に 寿命と絶滅サイズ頻度分布でべき指数が合わないなどの問題点を有する。我々は、系全体を見渡す仕組みの存在 しない系を、多数の時計が非同期で同調し合う系としてモデル化した。生物種は砂時計に擬され、降砂速度は周囲 の砂時計の降砂速度に同調しながら決まっていく。時計合わせという操作が帰結するデジタルとアナログのインターフ ェースは、降砂量と降砂量規則のインターフェースと捉え直され、これを降砂量リターンマップの自己相似性としてモ デル化した。各砂時計は、周囲M個の時計の降砂量データ{(ak(t-2), ak(t-1))}から縮小写像によって降砂規則を構 成し、自らに適用して砂を落とす。時計の下層の砂量をc(t)、降砂量をa(t)とすると、 a(t+1)=f(c(t)+a(t)-r)で表され、 f(x)はある値を越えると時計が分裂して砂量をリセットし、負になると時計を殺す。rはパラメータである。 数値計算の主な結果は以下の通りである。死を調整するrの依存性は低く、寿命分布に関してほぼ広範なrに対して 指数2のべき分布が得られた。また、単系統が絶滅するまでの子孫数頻度分布、および同時絶滅のサイズ頻度分 布も指数2のべき分布が得られ、化石やサラブレッドのデータに合うことが確認された。 (3)サラブレッド系統にみられるパターンの不連続性と予想外の挙動は、育種家という観点からどのように整理される か。この問題を考えるために、意味論の変化に関してデータ解析する方法を考案した。ここで意味論とは世界全体と、 育種家に流通したサラブレッドモデルとのインターフェースだ。育種家にとって、優良馬を生産するための意味(指標) が予め決定され、彼らはそれのみを参照して交配を決定すればよいのではない。その都度育種家の判断で、世界か ら何らかの判断材料が選択され、モデルに加えられる。したがって意味論は、そのときその場において、局所的に構 築され、時々刻々変化するだろう。申請者は局所的意味論を以下に従って計算した。まず、育種家が主に優良馬と する属性の集合Mを定義し、生産された馬のn世代前までの祖先馬集合Gを定義した。各馬の属性は記録に残っ ているから、両集合の間に二項関係が定義できる。この二項関係に基づき、意味論を概念束の形で定義できる。す なわち、或るGの部分集合と関係のある全てのM要素を集め、これら部分集合の対を形式的概念と定義し、対第1 成分の包含関係で順序を定義するのである。 これに対して、サラブレッドのデータを解析する場合、属性の集合に未知な属性を一つ加える。このとき加える以前の 概念束LNと加えて二項関係の大きくなる概念束LBとが、或る条件のもとでできるだけ束同型となるよう、未知な属 性とG との間に関係を定義する。実際には、可能な関係を全てシミュレートし、compatibilityを最大とする関係を 選択する。これは、育種家が系統に対して一般的に言われる属性の意味論を考慮しながら、独自の情報を加えて種 馬生産を決定するとの仮定を表す。未知の属性に関して、データを参照しながら二項関係を決定することで、意味論 の局所性が推定されるわけだ。この結果、各馬の誕生ごとに、育種家の判断が考慮された局所的意味論LBとLN とが計算される。 ここでは最終的に得られたLBとLNとのcompatibilityの程度を定量化し、これと種馬としての成功度(自分の子が種 馬となった確率)とを比較し、その分布の上限において正の相関を得た。この結果、断続平衡的大発生も、育種家が 絶えずおこなっている、現実世界と一般的経験則との調整がうまくいった場合として説明可能であると判明した。これ は(2)における砂時計の調整を現実に育種家がおこなっていることの証拠と考えられる。 |