動的概念束を用いた現象論的計算

 

2集合とその間の部分集合である2項関係の3対によって定義された形式的文脈は、ガロア接続を帰結するポーラー 演算子によって、形式的概念束を与える。概念束要素は、与えられた2集合の部分集合対で定義され、両者はポー ラー演算子によって可換である。しかし形式的文脈が与えられている以上、創発・生成に関与する概念ではない。 我々は、ポーラー演算子を定義する全称量化子を不完全にしか全体をみないものに再定義し、新たなポーラー演 算子ではガロア接続が帰結されないように不完全概念を定義した。この結果、概念束ではブール束を与える形式的 文脈群から、分配律に関して階層性のある概念束階層が得られることが判明した。また、得られた不完全概念束が ガロア接続を再現するように形式的文脈を変えると、不完全概念束を経由しながら形式的文脈は変わり続ける。これ を意味論として用いるブール多項式の計算システムを提唱した。従来計算システムでは、或る問題解法に関する計 算効率のみが問題にされる。我々は計算効率と計算万能性をセル・オートマトン上で定義し、両者の関係を調べた。

 

その結果、初等的セル・オートマトンの全てをブール多項式で表し、これをブール束上で計算すると、計算効率と計算 万能性との間に明瞭な排他律が存在することが判明した。これに対して計算されるビット列に応じて、さらに自らのガ ロア接続を満足しようとする運動によって変化し続ける不完全概念束上で同じ計算をすると、計算効率と万能性に関 する排他律が弱められると判明した。我々は、不完全概念束を用いて、現象としての計算をモデル化したのだ。計算 実行環境をその都度個物化する計算過程がこれにあたる。計算実行環境を自明とされる計算機と異なり、生物系の 現象を計算過程とみなすなら、計算実行環境を維持しながら計算を進める計算過程なる概念を構成せねばならな い。我々はこれを現象論的計算と呼ぶ。現象論的計算にまで計算概念を拡張するとき、適当に万能性を有しながら 適当に効率のよい計算が実現されるということは、生物の進化・適応に関しても、重要な知見を得たと考えられる。

 

NEXT