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時間と空間認知の関係に関する実験的研究
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記憶と予期を含む認知的時間構造と運動を通した空間把握との関係に関して、様々な認知実験を行ってきた。
ここでは例として(1)について簡単に述べる。我々は次のような作業仮説を採用した。左右反転眼鏡を装着しない場 合,視覚と運動は外部環境の把握に関して完全に一致し,その結果トップダウン的な環境の認知が可能となっている。 いわば意識が主導的に外界を抽象化し、外界は抽象的性格・タイプとして把握,記憶される。だから地理的経路記 憶には、抽象化・簡略化された或る種のパターンが用いられるだろう。対して,左右反転眼鏡を装着した場合には, 視覚・運動の齟齬が継起する結果、断片的な瞬間の記憶が互いに独立に、並列的に記憶されるだろう。後者の記 憶システムは、視覚・運動の齟齬を調停する媒介者として現前するものだ。まさしく両者の齟齬にも拘わらず、迷路を 解くという課題遂行が実現されていくのだから。この場合、迷路を解くという総合的行動が,独立な記憶断片の並列 的処理の結果もたらされる。いわばボトムアップ的処理によって総合的全体が生成される。左右反転視野下では、運 動・視覚の媒介者が、より明確な媒介者として顕現し,寧ろ視覚・運動系の相互作用を主導する場合も起こり得るに 違いない。つまり、断片的記憶自身が、総合的全体の一部という身分規定に留まらず,新たなトップエージェントとし て全体性を獲得することがあり得るということだ。断片的な局所的地理が、ランドマークのように機能することで。その 地点を思い出した途端、単にそれ以後の局所的方向が想起されるというに留まらず,あたかも展望台に登って全体 の地理を俯瞰しているかのように全体を認知する。このときボトムアップ的処理の結果,ある全体性という記号まで生 成されたと言えるだろう。結局,運動・視覚系の齟齬の有無によって、記憶のトップダウン的処理とボトムアップ的処理 といった差異が生じるのではないか。我々はそう予想したのである。
以上の作業仮説を検証するため、我々は具体的実験を次のように構成した。被験者には、まず、迷路正解経路を記 憶する課題が与えられる。次にこの記憶を用いて迷路を実際に解いてみる課題が与えられる。さらに記憶が正確か 否か傍証を得る意味で,被験者に迷路と同じ升目を切られた方眼紙を与え,これに迷路の経路パターンを想起して もらい描いてもらった。被験者はこの一連の課題を,左右反転眼鏡着用前に全て実行する。その後被験者は,眼鏡 を着用し,5分間,三角形、円,星型のトレースをする。この段階で気分を悪くした被験者やトレースが全くできなかっ た被験者には実験を中断してもらい、データを破棄する。どうにかトレースできるようになった被験者だけが,前述の一 連の課題を,左右反転眼鏡を装着したまま全て遂行する。これで実験は終了し,眼鏡装着前と後で,結果が比較さ れた。結果の比較を容易にする目的で,眼鏡着用前・後の各々に対し,2種類の異なる迷路(タイプA、B)が用意さ れ,各々異なる方法で正解経路が記憶された。次にこの2種類の迷路を解き,経路像を描いてもらい、眼鏡着用前 後で,タイプA,Bの違いに起因する正答率や想起による経路復元率の変化を評価したのである。ただし眼鏡着用後 に用いた2種類の迷路は,経路記憶の方法に関してタイプA、Bに区別されるが,迷路自体は異なるものである。実験 の結果、作業仮説の正しさが検証された。
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