固体飛跡検出器
Solid State Nuclear Track Detector

 固体飛跡検出器は、高エネルギーイオンの通り道である飛跡(イオントラックあるいは核飛跡)を可視化し、その画像の分析を通じて同イオンの核種やエネルギーを同定する放射線検出器の一種であると考えることが出来ます。

 大抵の放射線検出器が放射線と検出器との相互作用を電気信号として(例えば、電気パルスの高さとして)捉えるのとは対照的に、固体飛跡検出器は、イオンの通り道を直接観察する他に類を見ない、その意味でユニークな検出器です。

 イオントラックあるいは核飛跡は、透過型電子顕微鏡を用いることのできる無機物質中のものであればそのまま観察することも決して不可能ではありませんが、広い面積を観察するためには見やすくする、すなわち可視化する必要があります。そのような可視化の方法としては、長らく化学エッチング処理が用いられてきました。そのような固体飛跡検出器はしばしばエッチング型飛跡検出器(Etched Track Detector)と呼ばれます。最近になって、レーザー共焦点顕微鏡を利用した蛍光飛跡検出器(Fluorescent Nuclear Track Detector)が開発されましたが、これはエッチングではなくてレーザー照射によって誘導される蛍光の空間的な発光分布を映像にしたものです。



エッチング型飛跡検出器蛍光飛跡検出器


◇ エッチング型飛跡検出器 ◇
Etched Nuclear Track Detector

 代表的なものにCR-39検出器の名前で知られているPADC(ポリアリル・ジグリコール・カーボネート)があります。その繰り返し構造単位とモノマーの分子構造を図1に示します。2つのカーボネートエステルと中央にエーテルを持った3次元ネットワーク構造をしています。

 図2には、トリトンとアルファー線のエッチピットを示します。エッチング処理によって、イオントラックが優先的に溶出されるために、このようなエッチピットが生まれますが、これは通常の光学顕微鏡で十分観察できる大きさにまだ簡単に拡大できます。エッチピットのサイズや形状は、エッチング条件だけでなく、イオンの種類やエネルギーに強く依存します。したがって、エッチング条件を適切に設定することで、エッチピットの観察から、イオンと同定しエネルギーを評価することとが可能です。

 図3は、リチウムイオンのエッチピットです。2つのピットのうち右側は途中で曲がっていますが、PADCを構成する炭素か酸素の原子核と衝突した結果です。



図1 PADCの分子構造.

図2 (a)トリトンと(b)アルファ線のエッチピット.

図3 リチウムイオンのエッチピット(出典:Radiation Measurements Vol. 34 (2001) 37-43.).



◇ 蛍光飛跡検出器 ◇
Fluorescent Nuclear Track Detector

 米国ランダウア社(Landauer Inc.)が開発した炭素とマグネシウムをドープした酸化アルミニウム(Al2O3: C, Mg)の単結晶で、酸素の空孔を高い濃度で含んでいます。

 イオントラックの周辺に形成される損傷(カラーセンター)は620nmの光を吸収して750nmの蛍光を発します。この蛍光を共焦点顕微鏡で3次元像にすることでイオントラックを可視化します(図4参照)。

 PADCを上回る性能が確認されています。現在、大きな注目を集めている新しい固体飛跡検出器です。
参考文献:G. M. Akselrod et al., “A novel Al2O3 fluorescent nuclear track detector for heavy charged particles and neutrons”. NIM B247 (2006)295-306.



図4 共焦点顕微鏡の原理(出典:『初めてでもできる共焦点顕微鏡』高田邦明編(羊土社)2004)