III. 公開臨海臨湖実習の現状の総括

 

1. はじめに

  国立大学臨海臨湖実験所長会議が主催する公開臨海臨湖実習は、開始以来ほぼ20数年を経て今日に至っている。昭和50年に岡山大学と島根大学との単位互換制度に則って試行された臨海実習は、昭和53年度より文部省と関係大学のご理解を得て教育方法改善経費の示達を受け、その後多くの臨海臨湖実験所等が実施するようになった。ここ数年は文部省のカリキュラム改革調査研究経費の補助を受けて開講している。

 昨年、所長会議では公開臨海臨湖実習検討部会を設け、これまでの実習の点検評価を行い、将来の方向性を探るための基礎資料を作成することとなった。

それを受けて、本部会ではこれまでの資料を集めて分析し、一定の結論を得たのでここに報告する。ただ、過去の古い資料は散逸したものもあり、断片的にならざるを得ない部分もあったが、この報告から各臨海・臨湖実験所及びセンターが、熱意をもって公開臨海臨湖実習に取り組んできた様子を、把握していただければ幸甚である。なお、以下の記述は資料編の図表を参考にして読まれたい。

 

2. 開講実習と受講生数の推移

 公開臨海臨湖実習の開始当初には、開講された実習は3つに過ぎなかったが、平成9年度には学部向けと大学院向けを合わせて25の実習を開講するまでに増加し、臨海臨湖実験所所長会議に加わっている全ての実験所が公開臨海臨湖実習を開講するようになった。

 一方、受講した学生の所属する大学(委託大学)数は、平成に入り急激に増加し、ほぼ50大学に達し(表1、図1)、受講した学生の人数は300名を越える(表2、図2)。昨今では、350人程度の学生が受講しており、現行の方法をとるかぎり恐らく400人がその上限と考えられる。女子学生はおよそ、全受講者の半数を占める(図2)。

 表1には、各年度における委託大学別の受講生と受講した実験所の数が示されている。多くの学生たちは、それぞれの関心に応じていろいろな実験所へ出かけて受講していることが分かる。一方、1回あるいは極めて少数回のみ学生を送り出して、それ以降、全く学生をおくりだしていない秋田大学、福島大学、群馬大学、岐阜大学、佐賀大学等がみられるが、当該大学におけるカリキュラムの改正等に依るのであろうか。私立大学からの受講生は現在のところ少数であるが、今後は単位互換制度の拡充によって私立大学の受講希望学生が増える事が予想され、もし、そうなれば従来の選考方法や受け入れ体制の変革を迫られることは必至である。

 委託大学によって、受講生がまとまってある実験所の実習を希望する傾向があるのかを調べてみた。表1の資料より計算した結果、数値(人数)の高いほどその傾向を示しているが(表3)、実験所によっては自大学の学生を意識的に混ぜる大学もあり、この数値をそのまま鵜呑みにすることはできない。ただ、奈良女子大学の2.59人という数値はまとまって受講する傾向を示している。

 最近の各実験所・センターの受講生の受け入れ状況を表2に示した。受け入れ人数はその実験所・センターの物理的、及び人的規模により、さらにテーマにより大きく異なる。しかしながら、実習の形態や宿舎の定員に限りがあることから、工夫を凝らしてもこれ以上の大幅な増加は困難と思われる。

 図1から、公開臨海臨湖実習を開講している実験所(大学)数が頭打ちであるのに、委託大学数が増えていることがわかる。これは委託大学一校当たりから受け入れる学生の人数が減少しているが、より多くの大学からの学生を受け入れるようになっているためと考えられる。実際、1989年までは一つの大学から2人以上の学生を受け入れていたが、最近は1.8人にまで減少していることが明らかである(表3、図3)。今後、受講生の増大に伴って、一校から受け入れる受講生はさらに減少する可能性が高い。

 

3. 大学院生対象の実習

 次に、大学院生対象の公開臨海臨湖実習について、その開講数と委託大学院の数を比べると、開講実験所は3校程度と変わらず、委託校も10校を前後しており(図4)、最近になっても特に大きな変化は見られない。これは大学院の学生は、すでにテーマが決定しているため、多くは必要に迫られた場合にのみ参加を希望するためと思われる。また、学部学生を対象にした公開臨海臨湖実習の開講の目的の一つが、実験所への学生の確保という意味合いを否定できないのに対し、すでに大学院生になっている他大学の学生に対してはその魅力が少ないと言った現実も、開講実験所数が増加しない理由の一つかもしれない。

 

4. 受講の動機

 学生の側に立って、なぜ公開臨海臨湖実習への参加を希望したのかをアンケートで見てみると、その動機は、各年度で驚くほど一致している。受講生は他大学の学生と交流し、異なる自然環境への接触を求めていることがわかる(表4)。これらの事実は、公開臨海臨湖実習は、実習の内容に加えて、自然環境を含めた各実験所の特徴を出す必要があることを示唆している。

 そのような動機を持った学生が実際に来所して、実習環境をどう思ったかを示したのが表5である。残念ながら、実習環境に対する満足度は年を追って下がる傾向にある。特に、実習器具の充実感は低い。また船舶に対する失望感もある。これは増加する志望学生に対して十分な予算をかけられず、その場しのぎの対応しか出来ていない為と思われる。また、船舶の老朽化が進んでいることも反映されている。

 受講生はほぼ一週間実験所の宿舎に泊まり込みで実習を受ける。食生活を含めその生活環境に対する感想を表6に示した。おおむね良好と判断されているようだが、特に食事内容に関して満足度は近年上がっていることが注目される。これは、賄いを手伝う技官等が削減されてきたことを考えると意外な感想であるが、教官自らが食事の世話をする実験所もあると聞くなど、所員がせめて食事だけでも良くしたいと工夫を凝らしている為と思われる。

 

5. 今後の在り方

 公開臨海臨湖実習の受け入れ学生数は、ほぼ上限に近づいていると考えられる。今後、量的な拡大を計るには、教官やTAの増大あるいは宿舎の増設等が必須である。一方、単に量的な改革をするのではなく、質的な改革を推し進めようという意見も所長会議では論議されている。外国人研究者を実習の講師に招くことを本年度初めて申請したが、これはその手始めである。また、欧米の実験所で開講されているように、分野別の実習を比較的長期(3週間程度)に開講し、1週毎にその分野の世界的権威をつぎつぎと講師に招くことも、魅力ある公開臨海臨湖実習へ脱皮する手段の一つである。さらに、このような実習をわが国の若者だけでなく、広く世界の若者、特にアジアの新興国の学生に公開することも近い将来とるべき方策の一つと思われる。

 いずれにせよ、現行の公開臨海臨湖実習を質的に向上させながら、文部省当局や関係大学のこれまで以上の理解を得て、改革の著に着くべきであろう。

                        平成10年3月

                       公開実習検討部会
                         金沢大学 笹山雄一
                         東北大学 加藤秀生
                         琉球大学 酒井一彦