主要な発表論文

主要な発表論文(2018)

・Okada, S., M. Sasaki and M. Yamasaki
A novel rice QTL qOPW11 associated with panicle weight affects panicle and plant architecture.
Rice (2018):11:53. 論文へのリンク
簡易的なイネ収量試験を提案し、イネ収量に関連するQTLを迅速に同定できた。
・Kuroha, T., K. Nagai, R. Gamuyao, D. R. Wang, T. Furuta, M. Nakamori, T. Kitaoka, K. Adachi, A. Minami, Y. Mori, K. Mashiguchi, Y. Seto, S. Yamaguchi, M. Kojima, H. Sakakibara, J. Wu, K. Ebana, N. Mitsuda, M. Ohme-Takagi, S. Yanagisawa, M. Yamasaki, R. Yokoyama, K. Nishitani, T. Mochizuki, G. Tamiya, S. R. McCouch and M. Ashikari
Ethylene-Gibberellin signaling underlies adaptation of rice to periodic flooding.
Science (2018):361:181-186. 論文へのリンク
洪水に適応し、背丈を急激に伸長させて生き延びることができる「浮きイネ」を制御する鍵となる遺伝子をゲノムワイド関連解析(GWAS)により発見し、その機構と起源を明らかにしました。

主要な発表論文(2017)

・E. Matsuo, K. Yamazaki, H. Tsuruta, P. Roy
Interaction between a unique minor protein and a major capsid protein of Bluetongue virus controls virus infectivity.
Journal of Virology (2018):92:e01784-17. 論文へのリンク
二本鎖RNAをゲノムとして持つブルータングウイルス(BTV)は反芻類に感染し、特にヒツジでは感染個体の70%以上が死に至ります。BTVの宿主細胞内におけるウイルス粒子形成・ウイルスゲノムの取り込みには、ウイルスを構成するタンパク質の一つであるVP6の3つのアミノ酸が重要であることを明らかにしました。

主要な発表論文(2016)

・Y. Mori, K. Inoue, K. Ikeda, H. Nakayashiki, C. Higashimoto, K. Ohnishi, A. Kiba and Y. Hikichi
The vascular plant-pathogenic bacterium Ralstonia solanacearum produces biofilms required for its virulence on the surfaces of tomato cells adjacent to intercellular spaces.
Molecular Plant Pathology (2016):17:890-902. 論文へのリンク
青枯病菌はナス科植物の導管病を引き起こす細菌であるが、導管に到達する前に、細胞間隙においてバイオフィルムを形成することが重要であることを明らかとした。細胞間隙で形成されるバイオフィルムは、電子顕微鏡観察資材であるナノパーコレーター上でも再現することができ、導管液ではなく、細胞間隙液で培養するとバイオフィルム形成が促進された。さらに、バイオフィルム形成に重要な遺伝子を欠損させた変異株は病原性を失った。
・K. Yano, E. Yamamoto, K. Aya, H. Takeuchi, P.-C. Lo, L. Hu, M. Yamasaki, S. Yoshida, H. Kitano, K. Hirano, M. Matsuoka
Genome-wide association study using whole-genome sequencing rapidly identifies new genes influencing agronomic traits in rice.
Nature Genetics (2016):doi: 10.1038/ng.3596. 論文へのリンク
ヒトの遺伝解析などで多用されるゲノムワイド関連解析(Genome-wide Association Study)についてイネで方法を改良し、農業上有用な形質の遺伝解析に成功しました。神戸大学で長年収集と保存をしていた、酒米を含む多様な日本水稲品種集団が供試され、4つの新規遺伝子が迅速に同定されました。
・D. Takagi, K. Ifuku, K. Ikeda, K. Inoue, P. Park, M. Tamoi, H. Inoue, K. Sakamoto, R. Saito and C. Miyake
Suppression of chloroplastic alkenal/one oxidoreductase repressses the carbon catabolic pathway in Arabidopsis thaliana leaves during night.
Plant Physiology (2016):170:2024-2039. 論文へのリンク
植物が光合成を行う際、余った光エネルギーが周りの酸素と反応し、活性酸素が発生します。活性酸素はさらに、葉緑体の内部でチラコイド膜を分解し、植物にとって非常に有害な活性分子「RCS」を生成し、このRCSが蓄積され、植物体内にさまざまな影響を及ぼすことで植物の枯死を引き起こします。このようなRCSのはたらきを抑制するための多くの遺伝子のうち、光合成や呼吸を始めとする植物の生理反応への影響が明らかになっていなかった「AOR」に着目し、AORを欠いた種では野生種に比べて十分に生育しないこと、昼間に光合成によりデンプンを蓄積させるが、夜間のデンプンの分解が抑制されていることがわかりました。しかし、24時間昼間の環境で観察したところ、野生種とAOR欠損種の生育度合いにほとんど差はありませんでした。この結果は、昼間光合成により蓄積されたRCSが、細胞質やミトコンドリアといった植物の呼吸に関する物質に影響を及ぼし、呼吸速度が低下することで植物の生育が阻害されるという新しい事実を示しています。

主要な発表論文(2015)

・K.T.M Pham, Y. Inoue, B.V. Vu, H.H. Nguyen, T. Nakayashiki, K. Ikeda and H. Nakayashiki
MoSET1 (histone H3K4 methyltransferase in Magnaporthe oryzae) regulates global gene expression during infection-related morphogenesis.
PLoS Genetics (2015):11:e1005385. 論文へのリンク
イネ科植物いもち病菌ゲノムには8つのヒストンリジンメチル基転移酵素の候補が存在するが、それらの遺伝子破壊株を作成し、その表現型を解析した。その結果、H3K4メチル化を担うMoSET1がそれらの中で同菌の病原性に最も大きな影響を与えていることが明らかとなった。MoSET1が担うH3K4のメチル化は、これまで遺伝子発現の活性化を誘導すると考えられてきたが、その破壊株では野生株で通常発現が抑制されている遺伝子が多数活性化していることが観察され、遺伝子発現抑制にも関与していた。ChIP-seqおよびRNA-seqの詳細な解析により、H3K4メチル化は、直接的に遺伝子活性化に、また間接的に遺伝子抑制に関与していると考えられた。
・K. Takamatsu, J.C.M. Iehisa, R. Nishijima and S. Takumi
Comparison of gene expression profiles and responses to zinc chloride among inter- and intraspecific hybrids with growth abnormalities in wheat and its relatives.
Plant Molecular Biology (2015):88:487-502. 論文へのリンク
野生一粒系コムギ2種間で起こる雑種致死とその他のいくつかのコムギ近縁種間、あるいは種内の雑種生育不全について、転写産物のプロファイルを比較しました。そして、これらの雑種不全のいくつかは共通の遺伝子群の発現変動によって引き起こされることを明らかにしました。また、これらの生育不全が塩化亜鉛処理によって緩和されることを見出しました。
・M. Houlard, J. Godwin, J. Metson, J. Lee, T. Hirano and K. Nasmyth
Condensin confers the longitudinal rigidity of chromosomes.
Nature Cell Biology (2015):17:771-781. 論文へのリンク
細胞が分裂時に遺伝情報を正確に分配するためには、長大なDNA分子を染色分体として凝縮することが重要である。この凝縮という現象には、3つの物理的特性「DNA分子のひも状形態への圧縮」「同一染色分体内での接着による物理的強度」「染色分体間のもつれの解消」が必要である。本論文では、遺伝子組換えマウスを使用して、コンデンシンと呼ばれるタンパク質複合体が、卵母細胞の減数分裂において、染色分体の凝縮の3つの特性に必須であることを示した。
・D. Matsuoka, T. Yasufuku, T. Furuya and T. Nanmori
An abscisic acid inducible Arabidopsis MAPKKK, MAPKKK18 regulates leaf senescence via its kinase activity.
Plant Molecular Biology (2015):87:565-575. 論文へのリンク
植物ホルモンであるアブシジン酸処理により発現誘導されるシロイヌナズナMAPKKK18はMAPKKの1種であるMKK3と相互作用し、MAPKKK18-MKK3-MPK1/2経路がアブシジン酸のシグナル伝達において機能することを明らかにしました。またMAPKKK18遺伝子を過剰発現したシロイヌナズナの老化が促進される一方不活性型MAPKKK18を過剰発現した植物では老化が抑制され、それに伴い生育日数が伸びその結果としてバイオマスが増加しました。以上の結果はMAPKKK18が植物の生育期間(寿命)を調節する重要な遺伝子であることを示しており農学的にも利用価値が高いと考えられます。
・T. Furuya, D. Matsuoka and T. Nanmori
Membrane rigidification functions upstream of the MEKK1-MKK2-MPK4 cascade during cold acclimation in Arabidopsis thaliana.
FEBS Letters (2014):588:2025-2030. 論文へのリンク
植物が低温にさらされると細胞膜の流動性が低下し、そのことが引き金となりタンパク質リン酸化酵素の連続反応からなるシグナル伝達経路(MEKK1-MKK2-MPK4)が駆動し、低温応答遺伝子の発現に関与することを明らかにしました。これらの知見を利用して、細胞膜の流動性を低下させる試薬を植物に処理することで低温処理なしに低温馴化能を植物に付与することに成功しました。
・H. Nakano, N. Mizuno, Y. Tosa, K. Yoshida, P. Park and S. Takumi
Accerelated senescence and enhanced disease resistance in Hybrid chlorosis lines derived from interspecific crosses between tetraploid wheat and Aegilops tauschii.
PLoS ONE (2015):10(3): e0121583. 論文へのリンク
二粒系コムギとタルホコムギの種間雑種では、特定の交雑組み合わせでクロロシスの発症による生育不全が起こります。このような雑種では老化プロセスが促進されていることや、少なくとも一部の病原菌に対する抵抗性が強化されていることが明らかとなりました。
・R. Morita, M. Sugino, T. Hatanaka, S. Misoo and H. Fukayama
CO2-responsive CONSTANS, CONSTANS-like, and time of chlorophyll a/b binding protein expression1 protein is a positive regulator of starch synthesis in vegetative organs of rice.
Plant Physiology (2015):167:1321-1331. 論文へのリンク
イネをCO2濃度の高い条件におくと発現が高くなるCCTタンパク質(CO2 Responsive CCT Protein: CRCT)について機能解析を行った.CRCTを高発現する形質転換イネではイネの茎に当たる葉鞘や稈でデンプンの蓄積量が3-5倍に増加し,発現抑制イネではデンプンがほとんど蓄積されなくなった.CRCTはデンプン合成に関係する遺伝子を一括制御するマスター遺伝子であり,イネの生産性の改良だけでなく,稲ワラからのデンプン生産,バイオエタノール生産にも応用できると考えられる.

主要な発表論文(2014)

・R. Nishijima, J.C.M. Iehisa, Y. Matsuoka and S. Takumi
The cuticular wax inhibitor locus Iw2 in wild diploid wheat Aegilops tauschii: phenotypic survey, genetic analysis, and implications for the evolution of common wheat.
BMC Plant Biology (2014):14:246. 論文へのリンク
異質倍数性進化の代表であるパンコムギを材料に、その成立を解く鍵となる植物体表面を覆うワックスについて、その阻害遺伝子であるIw2の遺伝解析と座乗染色体領域の解像度の高い解析から、直接の祖先となった野生種のタルホコムギが持つ遺伝的特性について明らかにしました。
・J.C.M. Iehisa, R. Ohno, T. Kimura, H. Enoki, S. Nishimura, Y. Okamoto, S. Nasuda and S. Takumi
A high-density genetic map with array-based markers facilitates structural and quantitative trait locus analyses of the common wheat genome.
DNA Research (2014):21:555-567. 論文へのリンク
異質6倍体であるパンコムギについて、2品種のゲノムの高速シークエンスデータの比較から得られたプローブを搭載したアレイを用いることで、超高密度の連鎖地図を作成でき、解像度の高いQTL解析が行えるようになりました。
・M. Adachi, T. Hasegawa, H. Fukayama, T. Tokida, H. Sakai, T. Matsunami, H. Nakamura, R. Sameshima and M. Okada
Soil and water warming accelerates phenology and down-Regulation of leaf photosynthesis of rice plants grown under free-air CO2 enrichment (FACE).
Plant and Cell Physiology (2014):55(2): 370-380. 論文へのリンク
50年後に想定される大気CO2濃度(約580 ppm)と温暖化環境(通常温度区と比べて水温を2℃上昇)を屋外の水田で実現し,イネの生育と光合成への効果を解析しました.その結果,高CO2・温暖条件は、生育後期の葉身窒素含量(特にCO2固定酵素のルビスコ含量)を低下させ,それにより光合成能力を低下させることが分かりました.将来の気候変化に対するイネの生育・収量予測を行う上で有用な知見と考えられます.
・Y. Matsuoka, S. Takumi and S. Nasuda
Genetic mechanisms of allopolyploid speciation through hybrid genome doubling: novel insights from wheat (Triticum and Aegilops) studies .
International Review of Cell and Molecular Biology (2014):309: 199-258. 論文へのリンク
コムギとその近縁種では、種間交雑と染色体倍加によって異質倍数体が新種として成立する異質倍数性進化がみられます。この進化の遺伝機構に関する最新の知見を網羅した総説です・B
・K. Morita, T. Hatanaka, S. Misoo, and H. Fukayama
Unusual small subunit that is not expressed in photosynthetic cells alters the catalytic properties of Rubisco in rice.
Plant Physiology (2014):164 (1):69-79. 論文へのリンク
光合成の初発反応を触媒するRubiscoの小サブユニット遺伝子(RbcS)は多重遺伝子族によりコードされている。Rubiscoは光合成に関わる酵素であるにも関わらず、光合成器官である葉で発現しない異質なRbcSがイネに存在した。このRbcSが組み込まれたイネRubiscoは野生型に比べて高い触媒速度を示すことから、イネは異なるRbcSを使い、器官によってRubiscoを使い分けていることが示唆された。
・J.C.M. Iehisa, A. Shimizu, K. Sato, R. Nishijima, K. Sakaguchi, R. Matsuda, S. Nasuda and S. Takumi
Genome-wide marker development for the wheat D genome based on single nucleotide polymorphisms identified from transcripts in the wild wheat progenitor Aegilops tauschii.
Theoretical and Applied Genetics (2014):127:261-271. 論文へのリンク
パンコムギが3つ持つゲノムA, B, Dのうち、Dゲノムの変異量が他と比べて低いことが知られていて、パンコムギにDゲノムを提供した野生種であるタルホコムギの利用が進められています。このタルホコムギのSNPを葉と穂・フRNA-seqデータからゲノムワイドに見出し、オオムギのドラフトゲノムと比較しました。このSNP情報を使えば合成パンコムギという異質6倍性条件下でも高密度の連鎖地図をDゲノムについて作ることができます。

主要な発表論文(2013)

・K. Ikeda, B. V. Vu, N. Kadotani, M. Tanaka, T. Murata, K. Shiina, I. Chuma, Y. Tosa, and H. Nakayashiki
Is the fungus Magnaporthe losing DNA methylation?
Genetics (2013):195(12):845-855. 論文へのリンク
いもち病菌に存在する転移因子MAGGYは宿主菌の認識を受けてDNAメチル化されることが知られていました。しかし、MAGGYがDNAメチル化されない菌群が見出され、その原因がメチルトランスフェラーゼ遺伝子の変異であることを明らかとしました。いもち病菌はその集団内でDNAメチル化能力を失いつつある生物であることが分かりました。
・K. Ikeda, K. Inoue, C. Kida, T. Uwamori, A. Sasaki, S. Kanematsu and P. Park
Potentiation of mycovirus transmission by zinc compounds via attenuation of heterogenic incompatibility in Rosellinia necatrix.
Applied and Environmental Microbiology (2013):79(12):3684-3691. 論文へのリンク
白紋羽病菌は細胞質不和合性機構が強力に働き、菌糸融合する前に細胞死が起こり・A病原力低下作用を有するマイコウイルスの菌株間伝搬を阻害する要因となっています。亜鉛化合物はこのような細胞質不和合性反応を抑制し、任意菌株においてマイコウイルスの伝搬が可能となることを明らかとしました。
・Y. Morita, G.S. Hyon, N. Hosogi, N. Miyata, H. Nakayashiki, Y. Muranaka, N. Inada, P. Park and K.Ikeda
Appressorium-localized NADPH oxidase B is essential for aggressiveness and pathogenicity in the host-specific toxin-producing fungus Alternaria alternata Japanese pear pathotype.
Molecular Plant Pathology (2013):14(4):365-378. 論文へのリンク
ナシ黒斑病菌・ヘ宿主侵入を行う際に、植物表面との接触領域において活性酸素を生成することが明らかとなりました。この活性酸素生成に関わる遺伝子として2コピー存在するNADPH oxidaseのうち、NoxBのみが病原菌侵入能力の発揮に関与していることを明らかとしました。
・T. Ishii, K. Numaguchi, K. Miura, K. Yoshida, P. T. Thanh, T. M. Htun, M. Yamasaki, N. Komeda, T. Matsumoto, R. Terauchi, R. Ishikawa and M. Ashikari
OsLG1 regulates a closed panicle trait in domesticated rice.
Nature Genetics (2013):45(4):462-465. 論文へのリンク
我々の主食であるイネは、およそ1万年ほど前に狩猟採取をする古代人によって栽培化されたと言われています。本研究では栽培イネの誕生のきっかけとなった形質として、穂の形態が極めて重要であった可能性を示しました。栽培イネに見られる閉じた穂は、種を落ちにくくし、自殖率を向上させること、穂の開閉はOsLG1遺伝子によるものであり、OsLG1遺伝子が選抜を受けていたことが判明しました。古代人は積極的に閉じた穂の野生イネを栽培したと考えられます・B
・E. Matsuo and P. Roy
Minimum requirements for Bluetongue virus primary replication in vivo.
Journal of Virology (2013):87(2):882-889. 論文へのリンク
二本鎖RNAをゲノムとして持つブルータングウイルス(BTV)は反芻類に感染し、特にヒツジでは感・?ツ体の70%以上が死に至ります。BTVの宿主細胞内での複製において、初期段階である"Primary replication"には、11種類あるウイルスタンパク質のうち、構造タンパク質4種類と非構造タンパク質1種類の計5種類のウイルスタンパク質が必須であることを明らかにしました。

主要な発表論文(2012)

・Y. Marutani, Y. Yamauchi, M. Mizutani, and Y. Sugimoto
Damage to photosystem II due to heat stress without light-driven electron flow: involvement of enhanced introduction of reducing power into thylakoid membranes.
Planta (2012) 236: 753-761 論文へのリンク
植物の光化学系は光の存在しない高温環境下で重篤な障害を受けます。本論文では、最も大きな障害を被るコムギ、およびモデル植物のシロイヌナズナを用いてその障害メカニズムを解析したところ、光合成電子伝達系の異常により生成した活性酸素が 光化学系の中心的役割を担うD1タンパク質に障害を与えることが原因であることを突き止めました。
・Y. Yamauchi,, A. Hasegawa,, M. Mizutani, and Y. Sugimoto
Chroloplastic NADPH-dependent alkenal/one oxidoreductase contributes to the detoxification of reactive carbonyls produced under oxidative stress.
FEBS Letters (2012) 586: 1208-1213 論文へのリンク
環境ストレスを受けた植物の葉緑体中では、膜脂質が酸化されて反応性の高いカルボニル化合物が生成し光合成機能に障害を与えます。 本論文では、我々が以前発見した解毒酵素が、・EJル・{ニル化合物の毒性軽減に実際に生体内で機能していることを明らかにしました。
・A. Nakai, Y. Yamauchi, S. Sumi, and K. Tanaka
Role of acylamino acid-releasing enzyme/oxidized protein hydrolase in sustaining homeostasis of the cytoplasmic antioxidative system.
Planta (2012) 236: 427-436 論文へのリンク
環境ストレスを受けた植物体内では細胞毒性を示す活性カルボニルが多数生成します。本論文では葉緑体に存在する、NADPHを補酵素として活性カルボニルを還元する複数の酵素が協調的に作用して活・ォカルボニルを解毒する酵素系を明らかにしました。
・J. C. M. Iehisa, A. Shimizu, K. Sato, S. Nasuda and S. Takumi
Discovery of high-confidence single nucleotide polymorphisms from large-scale de novo analysis of leaf transcripts of Aegilops tauschii, a wild wheat progenitor.
DNA Research (2012):19(6):487-497. 論文へのリンク
コムギはまだリファレンスに出来るゲノム配列が解読されていません。そのような状況で、パンコムギの祖先野生種の1つであるタルホコムギ2系統の葉のRNA-seq解析を行い、de novoでアッセンブルすることで大量のSNPデータを取得しました。得られたSNPは、タルホコムギ遺伝子を連鎖地図上に位置づけるための有効なマーカーとして、ほぼ全て使えることが明らかとなりました。
・W. Yamori, C. Masumoto, H. Fukayama and A. Makino
Rubisco activase is a key regulator of non steady-state photosynthesis at any leaf temperature and, to a lesser extent, of steady-state photosynthesis at high temperature.
Plant Journal (2012):71(6):871-80. 論文へのリンク
Rubisco activaseは光合成関連タンパク質の中で最も高温に弱いことが知られています。Rubisco activaseの発現量を変化させた形質転換イネを用いて,異なる温度での光強度を変化させた際の非定常状態の光合成速度を解析ました。その結果Rubisco activaseは高温も含めて非定常状態の光合成速度の主要な律速要因であるこ・ニが明らかとなりました。
・H. Fukayama, C. Ueguchi, K. Nishikawa, N. Katoh, C. Ishikawa, T. Hatanaka and S. Misoo
Overexpression of Rubisco activase decreases the photosynthetic CO2 assimilation rate by reducing Rubisco content in rice leaves.
Plant & Cell Physiol (2012): 53(6):976-86. 論文へのリンク
Rubisco activaseは光合成の初発反応を触媒するRubiscoの活性化に必要・ネ分子シャペロン様タンパク質です。イネにおいてRubisco activaseを高発現させRubiscoの活性化状態を高めたところ,Rubisco量が減少し光合成速度が低下しました。RubiscoとRubisco activaseにはトレードオフの関係があることが示唆されました。
・H. Hatano, N. Mizuno, R. Matsuda, N. Shitsukawa, P. Park and S. Takumi
Dysfunction of mitotic cell division at shoot apices triggered severe growth abortion in interspecific hybrids between tetraploid wheat and Aegilops tauschii.
New Phytologist (2012) 194: 1143-1154 論文へのリンク
二粒系コムギとタルホコムギの種間雑種では、特定の交配組み合わせで発芽後すぐに生長を停止する現象が認められる。本論文ではこの生長停止・ェ茎頂における細胞分裂の不具合によって引き起こされることを明らかにしました。

主要な発表論文(2011)

・N. Mizuno, N. Shitsukawa, N. Hosogi, P. Park and S. Takumi
Autoimmune response and repression of mitotic cell division occur in inter-specific crosses between tetraploid wheat and Aegilops tauschii Coss. showing low temperature-induced hybrid necrosis.
The Plant Journal (2011) 68: 114-128 論文へのリンク
パンコムギの祖先種で・る二粒系コムギとタルホコムギを交雑すると、特定の交配組み合わせで低温依存的ハイブリッドネクローシスという現象が起こります。このような雑種では、低温条件下で細胞死が誘導されると同時に、茎頂分裂組織において細胞分裂活性の著しい低下も起こるため、植物体が枯れるだけでなく極端な・カ長阻害・ェ伴うことを明らかにしました。
・Q. B. Nguyen, K. Itoh, B. V. Vu, Y. Tosa and H. Nakayashiki
Simultaneous silencing of endo-β-1,4 xylanase genes reveals their roles in the virulence of Magnaporthe oryzae.
Molecular Microbiology (2011) 81: 1008-1019 論文へのリンク
植物病原糸状菌の角皮侵入に細胞壁分解酵素による化学的な分解が寄与しているのか?という疑問は、これら酵素群が遺伝子ファミリーを形成するために、これまで未解決のまま残されていました。本論文では、RNAサイレンシングを用いること によりendo-β-1,4 xylanase遺伝子ファミリーが、イネ科植物いもち病菌の病原性に大きな役割を果たしていることを明確にしました。
・K. Asano, M. Yamasaki, S. Takuno, K. Miura, S. Katagiri, T. Ito, K. Doi, J. Wu, K. Ebana, T. Matsumoto, H. Innan, H. Kitano, M. Ashikari and M. Matsuoka
Artificial selection for a green revolution gene during japonica rice domestication.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (2011) 108: 11034-11039 論文へのリンク
イネの“緑の革命”に大きく貢献した・笂`子はSemi-dwarf1です。“緑の革命”が起こった近代育種より数千年前の古代の人々が、野生イネから栽培イネが成立する際この遺伝子が変異した個体、つまり草丈が低くなるイネを選抜し、積極的に栽培していた可能性が高いことを明らかにしました。
・C. Ishikawa, T. Hatanaka, S. Misoo, C. Miyake and H. Fukayama
Functional incorporation of sorghum small subunit increases the catalytic turnover rate of Rubisco in transgenic rice.
Plant Physiology (2011) 156: 1603-1611 論文へのリンク
C4植物ソルガムの高活性Rubiscoの小サブユニットをイネRubiscoに組み込んだところ、触媒回転速度が約1.5倍に増加しました。この方法は、C3植物の光合成の改良に有効であると考えられました。
・R Ishikawa, T. Ohnishi, Y. Kinoshita, M. Eiguchi, N. Kurata and T. Kinoshita
Rice interspecies hybrids show precocious or delayed developmental transitions in the endosperm without change to the rate of syncytial nuclear division.
The Plant Journal (2011) 65: 798-806 論文へのリンク
多くの植物では、種間の掛け合わせを行うと、胚乳発生が抑制されたり、過剰な増殖が原因で生殖隔離がおこることが知られています。本研究では、栽培イネと野生イネの種間交雑において、胚乳発生の促進と抑制が見られる交配組み合わせを用いて、それらの胚乳発生と細胞化のタイミングを詳細に解析し、また、新規インプリント遺伝子OsMADS87との関連について解析を行いました。
・Y. Yamauchi, A. Hasegawa, A. Taninaka, M. Mizutani and Y. Sugimoto
NADPH-dependent reductases involved in the detoxification of reactive carbonyls in plants.
J. Biol. Chem. (2011) 286: 6999-7009 論文へのリンク
環境ストレスを受けた植物体内では細胞毒性を示す活性カルボニルが多数生成します。本論文では葉緑体に存在する、NADPHを補酵素として活性カルボニルを還元する複数の酵素が協調的に作用して活性カルボニルを解毒する酵素系を明らかにしました。
・K. Mizumoto, H. Hatano, C. Hirabayashi, K. Murai and S. Takumi
Characterization of wheat Bell1-type homeobox genes in floral organs of alloplasmic lines with Aegilops crassa cytoplasm.
BMC Plant Biology (2011) 11: 2 論文へのリンク
パンコムギの細胞質を近縁種であるAegilops crassaの細胞質に置き換えると、核と細胞質の相互作用により、雄ずいの雌ずい化(Pistillody)が起・アります。この雌ずい化した雄ずいにおける異所的な胚珠の形成について、4つのBell1型ホメオボックス遺伝子の発現パターンの比較から解析を行いました。

主要な発表論文(2010)

・M. Nakagawa, M. Ueyama, H. Tsuruta, T. Uno, K. Kanamaru, B. Mikami and H. Yamagata
Functional analysis of the cucumisin propeptide as a potent inhibitor of its mature enzyme.
J. Biol. Chem. (2010) 285: 29797-29807 論文へのリンク
メロン果汁中のサチライシン様セリンプロテアーゼであるククミシンのN末端に あるプロペプチドの構造と酵素活性阻害機構について明らかにしました。
・N. Mizuno, N. Hosogi, P. Park and S. Takumi
Hypersensitive response-like reaction is associated with hybrid necrosis in interspecific crosses between tetraploid wheat and Aegilops tauschii Coss.
PLoS ONE (2010) 5(6):e11326 論文へのリンク
二粒系コムギとタルホコムギをかけ合わせて合成パンコムギを作ると、ある特定の交配組み合わせで、病害抵抗性反応の1つである過敏感細胞死に良く似た反応が起きることを明らかにしました。
・N. Mizuno, M. Yamasaki, Y. Matsuoka, T. Kawahara and S. Takumi
Population structure of wild wheat progenitor Aegilops tauschii Coss.: implications for intraspecific lineage diversification and evolution of common wheat.
Molecular Ecology (2010) 19: 999-1013 論文へのリンク
パンコムギにDゲノムを提供した野生種タルホコムギの集団構造の解析結果から、タルホコムギの分布域の拡大とパンコムギの成立について新たな知見を得ました。
・C. Masumoto, S.-I. Miyazawa, H. Ohkawa, T. Fukuda, Y. Taniguchi, S. Murayama, M. Kusano, K. Saito, H. Fukayama and M. Miyao
Phosphoenolpyruvate carboxylase intrinsically located in the chloroplast of rice plays a crucial role in ammonium assimilation.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA (2010) 107: 5226-5231 論文へのリンク
細胞質にしか存在しないと考えられていた解糖系関連酵素ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼがイネでは葉緑体にも存在し、窒素(アンモニウム)を有効に利用するために働くことを明らかにしました。