Intergenomics Seminarセミナーと勉強会

第4回 インターゲノミクスセミナー
「高等植物の核ゲノムをめぐるインターゲノミクス」

講演タイトルと講演者

「非エピジェネティックな植物宿主とトランスポゾン の相互関係」
貴島祐治 先生(北海道大学大学院農学研究院)

 植物には脊椎動物などに比べ活発なトランスポゾンが多く見つかっている。ゲノムの構成要素として主要な因子であるトランスポゾンは,様々な形態で植物 ゲノムに散在している。その中で,動くという機能を絶たれずに,生息しているトランスポゾンは,恐らく植物宿主と多様な相互関係のもと,その活動が担保されているのかもしれない。我々は,植物トランスポゾンが宿主ゲノムとエピジェネティックの範囲を超えた相互関係をもつのではないかと考えている。 研究会では,キンギョソウやイネで得られたデータをもとに,非エピジェネティックな植物宿主とトランスポゾンの相互関係が存在するのかどうか議論したい。

「植物のゲノムインプリンティングと胚乳における生殖隔離」
木下哲 先生(国立遺伝学研究所)

 被子植物と哺乳動物では、母方の生殖系列をとおるか、父方の生殖系列をとおるかに従って、DNAのメチル化などのエピジェネティックな修飾に違いが生 じ、そのパターンに従って片親性の遺伝子発現を示すインプリント遺伝子が幾 つも見つかっている。シロイヌナズナではインプリント遺伝子は胚乳組織にみ られ、その発生を正または負に制御していることが明らかになりつつある。一 方で、古くから胚乳では種間の生殖隔離が見つかっており、いくつかのモデル が提唱されている。胚乳の生殖隔離に関するモデルとゲノムインプリンティングから見えてくる胚乳発生の制御機構が収斂しつつある現状を紹介する。

世話人:宅見薫雄(植物遺伝学)

世話人より

 IG研究会第4回セミナーが、平成18年12月18日(月)に瀧川記念会館大会議室において、「高等植物の核ゲノムをめぐるインターゲノミクス」と題して開催された。農学部の教員や学生だけでなく、理学部や自然科学研究科からも多くの先生や学生が参加していただいた。セミナーの講師として、以下の先生お二人にそれぞれ1時間程度ずつ講演をしていただき、各講演の後活発な討議が行われた。

「非エピジェネティックな植物宿主とトランスポゾンの相互関係」
貴島祐治 先生 (北海道大学大学院農学研究院)
「植物のゲノムインプリンティングと胚乳における生殖隔離」
木下 哲 先生 (国立遺伝学研究所)

 講師としてお話しいただいた両先生共に、植物生命科学の中でもオリジナリティーの高い仕事を積み重ねておられる。貴島先生の講演は、トランスポゾンを宿主ゲノムへの寄生者として捉え、宿主ゲノムとの相互関係についてであった。貴島先生は現在エピジェネティックな制御のみがクローズアップされているトランスポゾンの転移制御機構研究に、宿主ゲノムが遺伝的な制御下にトランスポゾンを置いて「飼いならしている」のではないか、という観点から研究を行っておられる。一方、木下先生は2倍体植物において例外的に3nの細胞からなる組織である胚乳の発生が、生殖が成功するか否かを決める場面で重要な役割を演じているという過去の知見と、胚乳においてエピジェネティックな遺伝子発現制御の1例であるゲノミックインプリンティングが見られるというご自身の発見とを関連付けながら、父親と母親のゲノム間の相互作用が生殖に与えるインパクトについてお話しいただいた。お二人の講演の内容は、質的に相当高いものであったと思っている。にもかかわらず、講演後の質疑が非常に活発であったことは、世話人として望外の喜びであった。二人の講師の先生方が、過去の遺伝学研究への深い造詣を持っておられ、そのことが薄っぺらでない、地に足をつけた研究を可能にしているのであろう。

 お二人共に研究の中で、DNAのメチル化というエピジェネティックな修飾に触れておられる。生物種間での相互作用でもこのようなエピジェネティックな研究は必要とされるであろうが、1つの細胞内でのインターゲノミクスを想定する場合、ジェネティックな側面とエピジェネティックな側面の両側からのアプローチが欠かせないようだ。相互作用の結果が表面化するインターゲノミクスの「場」が細胞であり、そこで起こる遺伝子発現が相互作用の結果に直結する以上、エピジェネティックな研究を導入することは当然のことなのかもしれない。

 インターゲノミクスという我々の提唱する概念からいえば、今回の講演内容は、トランスポゾンと宿主ゲノムのインターゲノミクス、胚乳における花粉親由来の半数体ゲノムと母親由来の2nの核ゲノムのインターゲノミクス、ということで捉えることができるのだが、インターゲノミクスが抱えることのできる裾野の広さを改めて示したのではないかと思っている。

 木下先生から下記のようなコメントをセミナー後にいただいている。
「大変アクティブなセミナーにお招き頂きありがとうございました。頂いたコメントやご質問を参考にして、今後の研究を進めていきたいと思います」

(世話人:宅見薫雄)