Intergenomics Seminarセミナーと勉強会

第9回 インターゲノミクスセミナー

講演タイトルと講演者

「家畜におけるゲノム解析-肉用牛ゲノム解析を中心に-」
阿部 剛 先生(独立行政法人 家畜改良センター)
「イネ野生種の多様性を用いた基礎研究と育種」
芦苅基行 先生(名古屋大学生物機能開発利用研究センター)

世話人より

 第9回インターゲノミクスセミナーが,平成20年11月28日(金)「動植物のDNAマーカー育種」というテーマで開催されました.育種というやや特化したテーマではありましたが,動物と植物とあってか多くの教員や学生が参加しました.農学部からだけでなく,理学部や自然科学研究科,他大学からの参加者も見られました.家畜動物の遺伝育種を御研究されている阿部剛先生とイネの遺伝育種を御研究されている芦苅基行先生を講師として,それぞれ1時間ずつ講演をしていただきました.講演後の質疑が活発となり,講演は成功と考えています.

 阿部先生には,日本の家畜ゲノム育種の最前線について,ウシ実験家系を用いたQTL(量的形質遺伝子座)解析及びブタにおけるマーカーアシスト導入(MAI)家系造成を中心にお話いただきました.特にウシのQTL解析においては、黒毛和種×リムジン種をP世代とするF2実験家系を用い,ウシ経済形質に関わるいくつかの遺伝子座を同定されました.中でも筋肉内の脂肪酸組成に影響するQTLにおいて、FASN遺伝子に着目し,不飽和脂肪酸含量に影響すると考えられるアミノ酸変異を同定されました.今後はこれらの遺伝子多型を選抜に利用するDNAマーカー育種への適用が期待されます.

 芦苅先生には,栽培イネのなかでも「浮きイネ」と呼ばれる,洪水がよく起こる場所で栽培されているイネについて最初にお話いただきました.水位が上昇すると浮きイネの草丈が急激に伸長し,植物体が水面上に出るというメカニズムに興味を持たれて,遺伝解析を行い,関与する遺伝子を3つ同定し,そのうちの一つの主要遺伝子については単離に成功されました.浮きイネの伸張の限界がわからないことや,浮きイネがどのように伸張していくかを映像でみせられ,学生も驚いていたようです.また植物ホルモンと浮きイネとの関係も分析され,浮きイネ性のメカニズムが明らかになってきていることは印象深く感じました.一方,浮きイネは洪水が起こるような地域での栽培化の過程に関与していると考えられました.次に野生イネの育種への活用,DNAマーカー育種による材料育成過程を示され,育成材料が今後育種へ役立ちそうです.

講演者からのコメント

阿部剛 先生

今回はインターゲノミクスセミナーにお招き頂きありがとうございました.セミナーや懇親会では,先生方より多くの意見を頂くことができ,非常に有意義な時間を過ごせました.特に植物のゲノム育種は動物のそれとは手法・考え方が全く異なるため大変驚きつつも大きな刺激となりました.

芦苅基行 先生

イネの環境適応性についてのセミナーで非常に特殊な話題にも関わらず,多くの聴衆の方々にお集まり大変感謝しています.
また、活発な質疑をして頂き,学生、教員の向学心の高さに驚きました. また,イネ以外の他作物の研究に従事している研究者の皆様との議論する機会にも恵まれ,多くの知識とアドバイスを頂き,大変感謝しております.また,このインターゲノミックスというセミナーでは,植物から動物まで様々な分野の先生を招き,生命科学と育種について議論する場であるとお伺いしておりました.今回,このセミナーに始めて参加させて頂き,普段聞くことのない異分野の先端研究の話を伺い大変感銘を受けるとともに,普段とは異なる視点で生命現象を見つめるいい機会となりました.
このセミナーも,既に数年続けているとのこと,神戸大学の教員の研究と教育に対する高いモチベーションに感服いたしました.

(世話人:笹崎晋史,山崎将紀)