Intergenomics Seminarセミナーと勉強会

第10回 インターゲノミクスセミナー

講演タイトルと講演者

「パンコムギの製パン性・製めん性の品質育種」
高田兼則 先生(農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター)
「パンコムギ穂発芽抵抗性のゲノム育種」
乕田淳史 先生(ホクレン農業総合研究所 バイオ研究センター)

世話人より

 今回のIGセミナーは「日本のパンコムギ育種を考える」と題して、12月18日(木)15時より農学部B403にて行われました。参加者数は約30名と、いつもよりも少なめでした。

 パンコムギは異質6倍体で、異なる3つのゲノム(A, B, D)が1つの核に同居しています。それぞれのゲノムは互いに祖先を同じくしており、いずれも基本染色体数は7です。よってパンコムギ体細胞には21対の染色体があるわけですが、このことと16Gbpにおよぶゲノムサイズの巨大さが、分子生物学的解析を困難にしています。しかし近年のEST情報の蓄積、SSRマーカーの充実は、パンコムギのゲノム解析に新たな局面を生み出そうとしており、実際にmap-basedクローニングにより遺伝子が単離されてきています。一方で、日本の小麦の自給率は現在約15%で、国産小麦の増産にあたっては品質の向上が強く求められてきました。コムギにおけるゲノム科学の伸展が日本のコムギ育種にどのような影響を及ぼしているのか、もしくは、及ぼそうとしているのか、そのポイントを考えたくて今回のセミナーを企画しました。

 最初の講演者である高田兼則先生には、日本の品質育種の最前線について、国産小麦の主用途であるうどんの製めん適性の改善、自給率約1%のパン用の小麦の開発と製パン性の改善、これらの品質特性に関わる要因の解明と育種への適用についてご自身の研究成果をお話しいただきました。

 二人目は乕田淳史先生に、穂発芽抵抗性育種とこの抵抗性遺伝子のmap-basedクローニングに向けたアプローチについて最新の成果をお話しいただきました。穂発芽は収穫前の連続降雨により穂中で種子が発芽する現象で、穂発芽した小麦は甚大な品質劣化をもたらし経済的価値を喪失させます。世界の小麦栽培地域の中でも、湿潤な日本で特徴的な育種目標です。

 いずれの研究テーマも日本独自の育種目標であり、複雑な表現型の改良を目的としたもので、育種家の明確な目標設定とその実現に向けた地道なプロセスが印象的でした。農学をめぐる生命科学の出口の1つは明らかに育種であり、新たな品種の育成です。また、それは時代のニーズと生産地のニーズの両方に答えるものでなくてはなりません。幅広い遺伝資源の中から様々な形質を効率的にスクリーニングし、より短時間で品種にまで持っていくには、精緻なサイエンスが必須だということを改めて感じさせていただきました。同時に研究者に最も必要とされているのは、表現型を見る「目」であるということ、今一度確認させられました。

講演者からのコメント

高田兼則 先生

自分が学生だった頃を思い返しても、現場の話は学生にはとっつきにくい話題で、興味もわきにくいことと思います。小麦の品種改良では早熟性や耐湿性など重要だけれども進展や解決の糸口がつかめないような形質が残されたままになっています。合成小麦など小麦のバリエーションを広げてこうした課題の突破口でも見えてくれることにも期待しています。

乕田淳史 先生

機会をいただいて感謝しております。大学の先生達とお話していると、レベルの高いお話をお聞きできるだけでなく、研究のことを普通にお話しできるのがとても有意義です。研究の益々の御発展をお祈りしております。

(世話人:宅見薫雄)