細菌のタンナーゼの多様性に関する研究

他の研究者らによってすでに公表されているStaphylococcus lugdunensisのタンナーゼ遺伝子tanAの遺伝子配列、アミノ酸配列をもとにタンナーゼ遺伝子を検索したところ、L. plantarum WCFS1株において、機能不明の遺伝子lp2956が見つかった。このlp2956とtanAの塩基配列は46.7%(アミノ酸配列では28.8%)の相同性を持つことが明らかになった。そこで、L. plantarum ATCC14917T株においてlp2956を標的としたPCRおよび、E. coli DH5αを用いたクローニングを行ったところ、L. plantarum ATCC14917T株はタンナーゼ遺伝子tanLplを保有することが明らかとなった。 また、tanLplを標的にしたPCR、サザンブロット法によりL. plantarumの近縁種L. paraplantarumにおいてタンナーゼ遺伝子の保有が確認された。L.paraplantarum NOS120株のタンナーゼ遺伝子tanLpaの塩基配列を決定し、tanLplと同様にクローニングを行った。クローニングにより得られたタンナーゼタンパクTanLpl、TanLpaと市販のA. oryzae由来タンナーゼとの酵素学的特性を比較した。MGを基質とした場合、各酵素の至適条件はTanLplでpH 8.0、40℃、TanLpaでpH 7.0、40℃、A. oryzae由来タンナーゼでpH 5.5、45~50℃であった。このようにそれぞれの微生物が産生するタンナーゼの酵素学的性質の違いが、植物の発酵、変敗における微生物の変遷に影響していることが示唆された。さらに、基質の違いによるタンナーゼ活性の差異を比較するために、没食子酸エステル結合を有する茶カテキンであるエピガロカテキンガレート(EGCG)、エピカテキンガレート(ECG)を基質に用いて、上記タンナーゼ(TanLpl、TanLpaおよびA.oryzae由来タンナーゼ)の基質分解を経時的に調べた。その結果、TanLpl、TanLpaでは両カテキンEGCG、ECGを加水分解したが 、A. oryzae由来タンナーゼではEGCGのみを分解し、ECGは分解されなかったことから、微生物の産生するタンナーゼには基質特異性があることが示された。しかし植物は、上記のEGCGやECG以外にも様々な加水分解型タンニンを産生している。このように多様な構造を持つタンニンによる植物の防御機構に対抗し、微生物が植物体から栄養源を獲得するために、微生物の産生するタンナーゼは構造や酵素学的特性が多様化しているのかもしれない。こうした微生物対植物における、タンナーゼとタンニンによる攻防の多様化を解明するためには、今後、L. plantarum、L. paraplantarumに加え他の微生物(例えばL. pentosus、S. gallolyticus等)のタンナーゼの構造や、MG, EGCG, ECGに加え他の加水分解型タンニンを基質とした酵素学的特性の多様性を明らかにしてゆくことが必要であろう。


 
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