タンナーゼ活性を有する乳酸菌の分類とフェノール物質代謝能に関する研究

タンナーゼ産生性細菌生菌体の有するタンナーゼ活性を定量する新しい比色法を確立した。 本法は、従来の分光光度計を用いた方法や比色法の検出限界より低 いタンナーゼ活性を、感度よく定量できるものである。
 ヒト糞便および発酵食品より分離した77株のタンナーゼ産生性乳酸菌について、遺伝子学的プロファイルやタンナーゼ産生能を調べる試験を行った。 recA遺伝子を標的としたPCR法では、1株を除いた全ての株がLactobacillus plantarum、L. paraplantarum、L. pentosusのいずれかに分けられたのに対し、 16S/23S rDNAスペーサー領域を標的としたPCR法では上記1株を含めた6株を除き、全てが前述の3種の近縁な乳酸菌種に分けられた。 続くDNA/DNAハイブ リダイゼーション試験の結果から、これらの6株は3種の標準株とのDNA相同性が1.2%〜55.8%と低い値を示すことが分かった。 これら6株につい て、炭水化物発酵パターンを調べた結果、2株がL. acidophilus、1株がPediococcus acidilactici、1株がP. pentosaceus、 残る2株が用いた同定システムの同定範疇外であることが分かった。これらの知見から、前述の近縁な3種の乳酸菌を同定するために 有用で信頼できる方法は、 16S/23S rDNAスペーサー領域を標的としたPCR法であり、またタンナーゼ遺伝子は乳酸桿菌科に広く存在していることが示唆された。 他方で、RAPD P PCR分析では種特異的ではないが、概ね4つの主なRAPDグループに分かれ、どのグループにも属さなかった8株は、 前述の6株とL. pentosusに分類される2株であったが、そのRAPDパターンは4つの主なRAPDグループとは40%以下の低い相同性を示すことが分かった。 タン ナーゼ活性の定量的分析から、同酵素活性は分類学的差異やRAPDグループの違いによるものではなく、菌株毎に著しい多様性がみられることが明らかとな り、 個々の菌株とタンナーゼ産生能の間には遺伝子学的な繋がりが存在すると示唆された。
 タンナーゼ産生性乳酸菌株のほとんどが没食子酸脱炭酸酵素活性を有し、タンニン代謝の最終産物はピロガロールであることが分かった。 ピロガロールは緑茶 カテキンに匹敵する抗酸化作用を有することから、ポリフェノール化合物のもつ薬理効果に乳酸菌群が寄与している可能性が示唆された。

 
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