食品中の生菌数の新しい測定法の確立に資する研究
―Dox法による牛乳中黄色ブドウ球菌生菌数測定―

 近年においても雪印乳業の低脂肪乳での黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)による集団食中毒をはじめ、 大規模な食中毒事件が発生しています。その理由の1つとして、公定法である平板法による食品中の生菌数測定の 問題点、つまり、測定の精度、測定に要する時間、労力があげられています。そこで今日、食中毒事件を未然に防 ぐために多くの生菌数迅速測定法が開発されています。迅速測定法の1つとしてDox法があり、 この方法の原理は、酸素電極を用い、試料液中に含まれる溶存酸素に依存する電流値を測定し、予め定められた閾 値に達する時間を測定するというものです。
 しかしながら、食品中には、熱、凍結、酸などによるストレスによって作られた損傷菌が多く存在し、この存在が Dox法を含む多くの生菌数測定法での測定値のばらつきという問題を引き起こしているのです。この損傷菌の回復 に有効である物質として、ピルビン酸ナトリウムがあり、Baird-Parkerらによって熱処理を受けたS. aureusの回 復が報告されています。
 そこで本実験では、2000年に起こった雪印の食中毒事件のように、牛乳がS. aureusによって汚染されたという想 定で、牛乳にS. aureusを実験的に接種し、さらに、57℃ 10分の熱処理を行って損傷菌を作り、ピルビン酸の効 果でDox法の測定が改善されるかを調べました。成績は以下の通りです。

1)57℃ 10分の熱処理をS. aureusに行うと、生菌数は、1/10〜1/100に減少し、生菌数の90〜99%が損傷さ れていました。しかし、熱への抵抗性の一般的な傾向はつかめませんでした。
2)57℃ 10分の熱処理をした場合、ペプトン培地では検出できなかったS. aureusの生菌数10_〜10_がピルビン 酸添加培地では検出できるようになり、ピルビン酸に損傷回復効果があることが示唆されました。
3)熱処理の有無に関係なく、ピルビン酸添加培地を用いるとDox法での測定時間がある程度短縮されました。この 場合のピルビン酸の効果は、損傷回復効果ではなく、直接有機物源として利用され、増殖を促進する効果として働い ていると示唆されました。

以上の成績から、ピルビン酸はS. aureusのDox法の測定時間短縮に若干の効果はありましたが、より測定時間を短 縮するためには、今後さらなる培地の改良が必要です。

 
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