ヒト腸管免疫モデルにおけるBifidobacterium longumの免疫調節能の検討及び機序の解明

 腸内免疫におけるBifidobacterium longumの免疫調節能の検討を行うために、初めにヒト上皮様株化細胞Caco-2とヒトマクロファージ様細胞THP-1の共培養系、ヒト腸管疑似モデルを構築した。次に共培養条件下でCaco-2の管腔内側から由来の異なるB. longum 3菌株7-115, KT237, JCM1217の煮沸サンプルをそれぞれ処理し、TEER値の推移及びTNF-α、IL-10、TGF-β1の産生量を調べた。又、共培養後にCaco- 2を除去し、THP-1のLPS応答性をTNF-α産生の観点から調べた。B. longum 7-115に関しては煮沸サンプル以外にもプロテナーゼK処理サンプル、UV処理サンプル、リゾチーム処理サンプルによるLPS応答性への影響も調べた。更にCaco-2に発現しているとされるTLR2の免疫応答への影響も併せて検討した。
 まずCaco-2とTHP-1を使用した共培養系の構築についてだが、過去の知見とは異なり本研究ではPMA刺激除去時間、馴化時間の設定により炎症を誘起しない共培養系、ヒト腸管疑似モデルの構築が可能となった。ヒト腸管疑似モデルではCaco-2へのいずれものビフィズス菌の間接刺激によりTHP- 1からTNF-αの産生が見られず、Caco-2のTEER値の低下も確認できなかった。この結果は本研究のビフィズス菌刺激は炎症を誘導するものではないことを示唆している。しかし、ビフィズス菌の免疫調節能力については検討できなかったため、共培養後のTHP-1のLPS応答性という観点から免疫調節能力を検討した。この結果、Caco-2への間接的なビフィズス菌刺激により免疫抑制が誘導され、この免疫抑制効果はB. longum 7-115菌株特異的だった。
 B. longum 7-115の免疫抑制効果は煮沸サンプル、プロテナーゼK処理サンプル、リゾチーム処理サンプルで確認できたものの、UV処理サンプルでは確認できなかった。比較的菌体表面が無傷な状態であると考えられるUV処理サンプルで免疫抑制効果が見られなかったことは、その他煮沸等の処理によって何らかの抗原が除去され、免疫抑制を誘導する抗原が表面に露出した可能性を示唆している。しかし、本研究ではグラム陽性細菌を認識するTLR2が免疫抑制効果に必要であるにも関わらず、菌株レベルで差異がある理由、又サンプル処理で差異がある理由は解明することはできなかった。
 共培養条件下ではB. longum 7-115刺激により粘膜免疫の恒常性に重要な役割を果たすとされるPGE2, IL-10, TGF-β1の産生もしくは産生亢進が確認できなかった。つまりこれらのサイトカイン、脂質メディエーターの産生、もしくはこれらの物質の産生を誘導する物質がCaco-2から産生されなかったことを示しており、免疫抑制効果にこれらの物質が関与していないことが示唆される。又、Caco-2へのTLR2 中和抗体処理がB. longum 7-115による免疫抑制効果を解除したことから、TLR2の下流に存在するNF-κBの関与についても阻害剤を添加することによって検討したが、阻害剤添加による免疫抑制効果の解除は確認できなかった。又、上皮細胞への細菌刺激による微小な過酸化水素の産生が免疫抑制効果に関与しているのではないかと推測し、CatalaseをTHP-1に添加して影響を検討したが、Catalase添加の有無に関わらず免疫抑制効果に影響がなかったため、今回の免疫抑制効果に過酸化水素は関与していないことが推測された。


 
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