徳永暁彦研究内容 <meta http-equiv="Content-Type" content="text/html; charset=Shift_JIS">

腸管出血性大腸菌O157およびO26に特異的な遺伝子の探索とその応用

 AFLPで得られた腸管出血性大腸菌(EHEC)O157に特異的なDNA断片を利用し、EHEC感染症において最も甚大な被害を引き起こしている血清型 O157株を食品や臨床検体から検出するためのPCR法を開発した。決定したDNA断片の塩基配列を利用して設計したプライマーの特異性を、全70株の様々な血清型を有するEHEC、STEC、EPEC O55株を用いて確認したところ、EHEC O157のみにおいて産物が増幅されたことから、本PCR法がEHEC O157を同定するためのツールとして有用であることが示された。
 一方、決定したEHEC O157に特異的なDNA断片の塩基配列を、データベースに公開されている全ゲノム配列が決定された腸管出血性大腸菌株であるEscherichia coli O157:H7 str. Sakai株の配列と比較したところ、本DNA断片はEHEC O157:H7が保有している巨大プラスミド、pO157上に存在している、toxBという遺伝子の一部であるということが明らかとなった。toxBが過去にEHEC O157以外にもO26などに存在することが報告されていたことから、様々な血清型を有するEHEC、STEC、EPEC O55株における本遺伝子の異同を調べたところ、本遺伝子がEHEC O157とO26に特徴的な遺伝子であることが明らかとなった。 また、EHEC O26が保有するtoxBの塩基配列を決定し、O157のものと比較したところ、両者は非常に相同性が高いものの、塩基置換レベルの差異が多数存在することも見いだした。そこで、この配列の差異を利用し、現在我が国において検査対象となっている EHEC O157とO26の食品汚染を一括、かつ両者を識別して検出することが可能なmultiplex PCR法の開発を試みた。今回我々が考案したmultiplex PCR法は、一部EHEC O121も検出されてしまうが、供試した全てのEHEC O157及びO26を検出することが可能であった。また、EHEC O157とO26(及び一部のO121)は、増幅される産物の大きさの違いにより、区別することが可能であった。食品培養液中のPCR阻害物質の影響を考慮し、EHECによる食中毒の主要な汚染食品である牛ミンチ、牛レバー、貝割れ大根を用いて本PCR法の感度、並びに人為的にEHEC O157あるいはO26、もしくはその両方を接種したサンプルからの菌の検出を試みたところ、本PCR法は増菌培養液中にEHEC O157もしくはO26が105 CFU/ml以上含まれていれば菌を検出でき、増菌前の食品1g当たりのEHEC汚染数が1 CFUに満たない(0.3〜0.5 CFU/1g検体)場合でも検出することが可能であった。 以上の結果から、我々が確立したmultiplex PCR法が、食品検体からEHEC O157/O26を検出するための一次スクリーニング法として重要なツールとなることが示唆された。


 
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