Bifidobacterium longumの線毛様タンパク質関連遺伝子の多様性に関する研究

 ビフィズス菌の一種であるBifidobacterium longumはヒトの腸内に優勢に存在し、生体に有用な働きをする善玉菌として多くのプロバイオティクスに利用されている。過去の研究で、ヒト腸管には宿主特有のB. longum株が定着していること、また外来の菌株は長期間腸内に定着できないことが報告されている。ヒト腸管はムチンと呼ばれる糖タンパクから成る粘液層に覆われており、ビフィズス菌の腸管への接着・定着にはムチンに結合することが重要であると考えられている。ビフィズス菌の腸管粘液への接着に関しては、菌体表層構造が粘液表層の糖質部分に結合することや、B. longumの腸管ムチンへの結合性が菌株依存的に異なることが報告されている。近年、B. longumのゲノム上で他のグラム陽性細菌の「線毛」の構築に関わる遺伝子群の存在が明らかとなり、腸管粘液への接着に関与すると推測されている。 本研究では、B. longumの宿主特異的な定着について検証するため、線毛関連遺伝子に注目して研究を行った。まず初めに、線毛関連遺伝子群の中でも、グラム陽性細菌 Actinomyces naeslundiiのU型線毛遺伝子でありレクチン様線毛タンパクとして糖鎖と特異的に結合することが報告されているFimAと相同性を示すBL0675遺伝子(possible cell surface protein similar to FimA fimbrialsubunit of A. naeslundii)に着目し、異なるヒト糞便より分離されたB.longum株におけるBL0675遺伝子のシークエンス解析及び比較解析を行った。さらに、この遺伝子の上流・下流に隣在し線毛構築に関与すると推測される遺伝子(BL0674[possible cell surface protein with gram positive anchor domain]、BL0676[sortase-like protein similar to fimbria-associated protein of A. naeslundii])についても解析を行い、菌株の所謂「線毛型」と宿主腸管への定着性との関連について検証した。 その結果、ヒト由来B. longumではBL0675遺伝子においてのみ、C末端側にLPxTGモチーフ配列と称される線毛タンパクに必要なアミノ酸配列を高度に保存している一方で、その他の配列においては菌株間で非常に多様であり、概ね5つのGroupに分類できることがわかった。また解析を行ったB. longumの中には、線毛関連遺伝子であるBL0674〜BL0676を含む領域を欠損している菌株も存在した。BL0675相当遺伝子の配列に基づく菌株のGroup分類結果を宿主間で比較すると、このGroupの分布は概ね宿主ごとに偏りのある傾向が見られ、同一宿主からは、1つのGroup株あるいは多くても2種類のGroupの菌株しか分離されなかった。 以上の所見より、B. longum株の宿主特異的な定着においてはこのBL0675にコードされる線毛様タンパク質が主に関与している可能性が考えられ、BL0675の遺伝子型により糖鎖への結合特異性が異なり、B. longumはこの結合特異性に適応した腸管粘液糖鎖を持つ宿主、あるいは同じ宿主内でも特異性に合致した腸管の特定の部位に定着しているのではないかと推察された。しかしながら、線毛関連遺伝子群を持たない菌株も存在したことから、線毛とは異なる定着メカニズムの存在も示唆された。


 
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