(6)乳酸菌、特にLactobacillus delbrueckiiのイヌリン資化性に関する研究




 最近よく耳にする、プロバイオティクスとは、口から摂取され、腸内細菌叢のバランスを改善することにより、宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物の総称を意味しており、具体的には乳酸菌やビフィズス菌などが挙げられる[1]。例えば、乳酸菌の一種であるLactobacillus delbrueckiiは、菌体外多糖(EPS)を豊富に産生し、免疫賦活作用などの有益な生理活性を有する[2]と報告されており、ヨーグルトなどの食製品に含まれているプロバイオティクス細菌である。つまり、L. delbrueckiiが含まれる食製品を摂取することにより、ヒトの腸内に本菌が定着し、健康改善効果が期待されるが、人の腸管では 100 種類、100 兆個以上の腸内細菌が腸内フローラを形成しており、外来から来た微生物は容易に定着できなく、効果は一時的といわれている[3]。そこで、L. delbrueckiiの増殖を高めるプレバイオティクスを同時に摂取することが重要である。
 プレバイオティクスとは、@消化管上部で分解・吸収されないA大腸に共生する有益な細菌の選択的な栄養源となり、それらの増殖を促進するB大腸の腸内フローラ構成を健康的なバランスに改善し維持するC人の健康の増進維持に役立つなどといった条件を満たす非消化性食品成分を指す[4]。プレバイオティクスの一つに挙げられるイヌリン型フルクタンは、複数のフルクトースがβ2-1グリコシド結合したものの末端にグルコースが結合したもので、重合度が3から60を超えるものまで存在する[5]。イヌリン型フルクタンは、L. delbrueckiiだけでなくL. paracasei等といった有用細菌の増殖を促進するという報告がある。また、このイヌリンの分解メカニズムに関して、L. paracaseiについては細胞外で多重合の分子を分解した後に遊離したフルクトースを細胞内に取り入れる[6]ということが報告されている一方で、L. delbrueckiiはイヌリンを細胞外で分解しておらず、高重合度のものでさえ直接細胞内に取り込む[7]ということが本研究室において示唆されている。しかし、どちらが増殖に優位であるかについては不明な点が多い。従って本研究では、 イヌリンを単一糖源とした培養条件においてL. delbrueckiiL. paracaseiの共培養実験を行い、それぞれの単培養時との増殖率を比較することにした。
 実験の方針としては、乳酸菌の基礎培地であるMRS培地から糖成分を除去した培地(mMRS培地)に糖成分として終濃度2%でイヌリンを添加した培地及びコントロールとして終濃度2%でグルコース及びフルクトースを添加した培地を作製し、L. delbrueckiiL. paracaseiの単培養試験と共培養試験を行った。それぞれの菌数をqPCR法を用いて測定した。
その結果、グルコース及びフルクトースを糖源とした場合、L. delbrueckiiは単培養に比べて共培養の際に増殖が落ちたのに対し、L. paracaseiは単培養と共培養の際の増殖には変化が見られなかった。このことから、グルコースの資化能はL. delbrueckiiに比べてL. paracaseiの方が長けていることが示唆された。一方で、イヌリンを糖源とした場合、L. delbrueckiiは単培養と共培養の際の増殖に変化が見られなかったのに対し、L. paracaseiは単培養に比べて共培養の際に増殖が落ちた。このことから、イヌリン共培時における増殖はL. delbrueckiiの方がL. paracaseiよりも優勢であることが示唆された。以上の結果より、イヌリンをプレバイオティクスとして摂取した際に、L. delbrueckiiが腸内においてイヌリンを効率的に利用できることが示唆された。 
また、本研究中にL. delbrueckiiを鏡検したところ、イヌリンで培養した際に菌体の伸長が観察された。現在は、この伸長現象に関する分子メカニズムを解明しているところである。


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   参考文献
(1) Kailasapathy, K., Chin, J. (2000) Survival and therapeutic potential of probiotic organisms with reference to Lactobacillus acidophilus and Bifidobacterium spp. Immunol. Cell Biol, 78, 80-88.
(2) S. Makino, S. Ikegami, H. Kano, T. Sashihara, H. Sugano, H. Horiuchi et al. (2006) Immunomodulatory effects of polysaccharides produced by Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1. J Dairy Sci, 89, 2873-2881.
(3) Goldin BR, Gorbach SL, Saxelin M, Barakat S, Gualtiere L, Salminen S. (1992) Survival of Lactobacillus species (strain GG) in human gastrointestinal tract. Dig Dis Sci, 37, 121-128.
(4) ヤクルト中央研究所HPhttp://institute.yakult.co.jp/japanese/dictionary/word_3.php
(5) Kelly, G. (2009) Inulin-Type Prebiotics -A Review: Part 1.Altern Med Rev, 13, 315-329.
(6) Goh YJ, Lee JH, Hutkins RW. (2007) Functional analysis of the fructooligosaccharide utilization operon in Lactobacillus paracasei 1195. Appl Environ Microbiol, 73, 5716-5724.
(7) Tsujikawa, Y., Nomoto, R., and Osawa, R. (2013). Comparison of degradation patterns of inulin-type fructans in strains of Lactobacillus delbrueckii and Lactobacillus paracasei. Bioscience of Microbiota, Food and Health, 32(4), 157-165





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