(8)飼育下チンパンジー糞便中のビフィズス菌に関する研究




Bifidobacterium属(ビフィズス菌)はヒトを含め様々な動物の腸内に存在するグラム陽性の偏性嫌気性細菌の一種である。 ヒトの腸内環境を整える善玉菌として乳製品や健康食品などに利用されている他、マウスやイヌ[1]等の動物の腸内ビフィズス菌に おいても有用性が認められ、ペット用の整腸剤としても用いられている。しかし、ヒトと最も近縁な動物である類人猿については未 だ不明な点が多い。近年、京都大学の研究グループによって霊長類と腸内細菌の共進化を明らかにすることを目的として飼育下および 野生下類人猿の腸内ビフィズス菌に関する研究が行われ[2][3]、2014年には野生下のニシローランドゴリラの糞便中から新種のビフィ ズス菌が発見された[4]。また、海外の研究グループによって、ヒトと比較してチンパンジー、ボノボ、ゴリラの3種の類人猿の腸内細菌 叢が非常に多様であることが報告されている[5]。これらの結果から霊長類の進化の過程で、「ヒトと類人猿が分岐した後にそれぞれの腸内 でビフィズス菌が独自の進化を遂げた」、もしくは「ヒトと類人猿が分岐した後にそれぞれの腸内に適応していた種のみが生き残った」のい ずれかの現象が起きた可能性が考えられる。
ビフィズス菌の遺伝的な違いは、細菌種を定める基準とされている16S rRNA遺伝子や、groELのようなハウスキーピング遺伝子塩基配列を 調べることによって明らかにすることができる。全体の1%の塩基配列が変異するまでに1億年という長い期間を要する16S rRNA遺伝子と比べて、 ハウスキーピング遺伝子の塩基配列は変異速度が速いことが報告されている[6][7]。類人猿とヒトが分岐したのは数百〜数千万年程前とされ、 16S rRNA遺伝子の塩基配列が大きく変異している可能性は低いが、ハウスキーピング遺伝子の塩基配列では変異が起きている可能性が高い。 そこで我々は国内の動物園から提供されたチンパンジーの糞便から生菌分離とDNAの抽出を行い、新種の発見や伝播経路の調査なども視野に入れ、 16S rRNA遺伝子とハウスキーピング遺伝子の塩基配列の解析によってヒトと類人猿の腸内ビフィズス菌の遺伝的な関係の解明を試みている。  

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 参考文献
(1)Vera B, Eva V , Vojtech Rada, Sarka R, Ivona S, Lukas J, Vladimir K. (2012) Bifidobacterium animalis subsp. lactis strains isolated from dog faeces. Vet Microbiol. 160 (3-4):501-5.
(2) Uenishi G, Fujita S, Ohashi G, Kato A, Yamauchi S, Matsuzawa T, Ushida K. (2007) Molecular Analyses of the Intestinal Microbiota of Chimpanzees in the Wild and in Captivity. Am J Prim. 69:367-76.
(3) Ushida K, Uwatoko Y, Adachi Y, Soumah AG, Matsuzawa T. (2010) Isolation of Bifidobacteria from feces of chimpanzees in the wild. J. Gen. Apple. Microbial. 56:57-60.
(4) Tsuchida S, Takahashi S, Nguema PP, Fujita S, Kitahara M, Yamagiwa J, Ngomanda A, Ohkuma M, Ushida K. (2014) Bifidobacterium moukalabense sp. nov., isolated from the faeces of wild west lowland gorilla (Gorilla gorilla gorilla). Int J Syst Microbiol. 64:449-55.
(5) Andrew H. Moeller, Yingying Li, Eitel Mpoudi Ngole, Steve Ahuka-Mundeke, Elizabeth V. Lonsdorf, Anne E. Pusey, Martine Peeters, Beatrice H. Hahn, and Howard Ochman. (2014) Rapid changes in the gut microbiome during human evolution. PNAS. 111(46):16431-16435.
(6) Fukushima M, Kakinuma K, Kawaguchi R. (2002) Phylogenetic Analysis of Salmonella, Shigella, and Escherichia coli Strains on the Basis of the gyrB Gene Sequence. J Clin Microbiol. 40(8):2779-85.
(7) Zhu L, Li W, Dong X. (2003)Species identification of genus Bifidobacterium based on partial HSP60 gene sequences and proposal of Bifidobacterium thermacidophilum subsp. porcinum subsp. nov. Int J Syst Evol Microbiol. 53(5):1619-23.





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