Title: 液体金属を使った磁気回転不安定性の検証実験
Authors: 陰山 聡
Abstract: 降着円盤における角運動量の異常輸送を説明する有力な不安定性の一つとして磁気回転不安定性(Magentorotational Instability, MRI)が考えられている。 MRIについてはこれまで理論および数値シミュレーションによる詳細な研究が多く存在する一方、実験的な研究は少ない。 プリンストン大学プラズマ物理研究所(PPPL)では、 MRIの直接検証を目指し、液体金属を用いた実験を準備中である。 MRIは本質的には非圧縮性のモードなので、 液体を使って実験しても問題ない。
実験の概要は以下の通りである。 同心の二重円筒容器を用意し、その間にガリウムを入れる。 モーターを使って内側の円筒は高速に、外側の円筒は低速に回転させ、 容器内部のガリウムが適切な回転速度シア分布をもつ定常状態を実現させる。 これは古典的なテーラー=クエット(TC)実験と類似の系であるが、 我々が興味を持つのはTC不安定性ではないので、 ガリウムの定常回転分布は、 流体力学的には(つまりTCモードに対しては)安定であり、 かつMHD的には(つまりMRIモードに対しては)不安定となるような状態である。 媒質の散逸率がゼロの極限では、 角速度が円筒の中心を原点として半径rの減少関数となる部分でMRIが不安定となる。 だがガリウムは有限の電気抵抗を持つので、不安定性条件は少し複雑になる。 その詳しい不安定条件は線形解析で既に計算済みである。 このような定常回転状態が実現された系に対して、 外部コイルを用いて磁場をかける。 この磁場の強さと角速度シアが上述の不安定条件を満足すればMRIの発生を直接観測することができるはずである。
我々はこれまで、 この実験系の線形安定性に関する理論計算[Ji et al., 2001, Goodman and Ji, 2002]、 水を用いた準備実験とそれに関連する数値シミュレーション[Kageyama et al., 2004]などを行ってきた。 講演では、これまでに我々が行ってきた準備研究と、まもなく始まる予定のガリウムを用いた実験計画の概要を紹介する。