研究内容

1.生殖細胞形成過程に働くRNAプログラム

小型淡水魚ゼブラフィッシュを用い、生殖細胞形成過程に働くRNAプログラムについて研究を進めています。
4細胞期胚の卵割面両端に局在化する母性mRNP(RNA-蛋白質複合体)が生殖細胞決定に必須な「生殖顆粒」であることを示すとともに、mRNA局在化機構の解明に取り組んでいます。また、局在化できなかったmRNAは体細胞においてmicroRNA (miR-430) による翻訳抑制・分解促進制御を受けること、生殖細胞ではmiR-430機能をキャンセルする仕組みが働いていることを明らかにしました。生殖細胞と体細胞の分化確立機構を解明する重要な糸口になると考えています。


 発生遺伝学研究のモデル生物
 ゼブラフィッシュ


   4細胞期胚における生殖顆粒
4細胞期の卵割溝に形成される生殖顆粒には
母性に供給されたvasaなどのmRNAが局在している。

  
   miRNAによるnanos1の発現制御
nanos1 mRNAは体細胞でmiR-430による翻訳抑制・分解促進制御を受け、生殖細胞特異的に発現する。miRNAを欠損するdicer変異胚では発現抑制が起こらない。


2.選択的スプライシングによる時空間的あるいは細胞環境応答性の発現制御機構

遺伝子中に含まれる介在配列イントロンは、スプライシングによって転写産物から除去されます。一遺伝子から複数種のmRNAを生成する選択的スプライシングは、蛋白質発現を多様化させるとともに、時空間的な制御システムとして発生分化・疾患などに重要な役割を果たしています。組織特異的なスプライシング制御機構の解析や、熱ストレスなどの細胞環境に応答した制御機構の解析を通し、選択的スプライシング機構の解明を目指しています。



ゼブラフィッシュ胚におけるスプライシング制御因子Fox-1の筋肉系特異的な発現

*赤矢頭:体節
  *黒矢頭:心臓原基
 *白矢頭:鰭原基

ヒトhsp105遺伝子における熱ストレス応答性の選択的スプライシング制御


3.神経細胞におけるRNP顆粒

神経細胞の樹状突起や軸索には、RNAと蛋白質の巨大複合体からなるRNP顆粒が存在しています。これらの神経RNP顆粒はmRNA輸送や局所的な翻訳制御に働くことで、神経細胞分化、神経機能、神経可塑性などに重要な役割を果たすものと考えられています。神経RNP顆粒の生理機能や形成機構、神経変性疾患に見られる異常顆粒との関係性などの解明を進めています。

マウス網膜由来の培養細胞における神経RNP顆粒とその役割のモデル


   

4.おまけ

生物学科2回生を対象とした学生実験では、プラナリアの再生現象の観察を行っています。


RNAi 処理後の切断・再生により双頭となったプラナリア