藻場の役割
 これらの藻場はいずれも陸上の草原や森林に匹敵する高い一次生産力を持つだけでなく,沿岸の生態系にとってきわめて重要な役割を果 たしています.すなわち河川からの富栄養な水の流入による植物プランクトンの繁殖や,波浪による撹拌で引き起こされる懸濁や浮泥は,海水の透明度の低下をもたらし,海藻などの底生藻類の光合成を阻害します.このような浮泥が堆積すると,海藻類の胞子などの生殖細胞が岩へ付着する上での障害ともなり,さらに発生しはじめたばかりの海藻類には光合成のための光を著しく遮ることになります.これに対して,藻場に繁茂する大型海藻類は,生長時に燐や窒素などの栄養塩類を吸収し,蓄えて,急激な増加を抑えるバッファー(緩衝装置)のようなはたらきするとともに,懸濁物を吸着したり底質を安定化させることにより,これらの障害を押さえる効果 があります.また,海藻類はそれ自体がさまざまな動物の餌となるとともに,様々な付着動物の生活の場となっています.これらの動物(小型の巻き貝やヨコエビ類)により付着性の珪藻類などが食べられたり,また海水を濾過することで栄養を得ている動物(カイメン類,コケムシ類,ゴカイ類,原生動物など)が増えて,水質の浄化がおこなわれるという効果 もあります.さらに藻場は魚類を含むさまざまな動物の隠れ場,産卵場所となっています.

海藻類を住処にする小型の動物類

アミジグサ類に寄生するソコミジンコ類

カジメの葉状部に着生するヒドロ虫類

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