II. 臨海臨湖実験所の教育研究実績の総括

 

1.はじめに

 国立大学臨海臨湖実験所長会議では、これまでも要覧や科学研究費総合研究(B)の研究成果報告書等で各実験所・センター(以下実験所)の研究と教育を紹介するとともに利用者の便宜を図ってきた。また、年2回の所長会議では、臨海臨湖実験所の現状と展望について議論を重ねるとともに、その成果を要望書として、平成7年度まで毎年関係各方面に提出してきた。必ずしも系統的とは言い難いが、従来も「自己点検・自己評価」はそのような形で、その都度個別的に行われてきた。しかし今回、新しい時代に対応した臨海臨湖実験所の教育研究のあるべき姿を積極的に求めて、自己点検評価検討部会、公開臨海臨湖実習検討部会、将来構想検討部会等を発足させ、検討を重ねてきた。

 自己点検評価検討部会では、1)国立大学の臨海臨湖実験所が、これまで生物学の教育と研究に果たしてきた実績を点検・評価するとともに、2)近代的な生物学の教育研究を推進するための障害となっている主な点を明らかにし、3)それらの問題点を解決する方策を関係各方面に働きかけていくための資料作成を目的として、各実験所からのアンケート報告を取りまとめた。取りまとめ方法は、各実験所ごとに項目を並べる要覧方式を取らず、項目ごとに全体像が一瞥して理解できるようできるだけ簡潔明瞭な表にまとめることをめざした。以下、項目ごとに簡単な総括とコメントを記載した。なお、アンケートの調査は平成9年4月に行った。

 

2. 活動状況

 昭和時代にセンター化されたのは、筑波大学下田臨海実験センター(昭和51年)と高知大学海洋生物教育研究センター(昭和53年)のみであった。平成になり、京都大学生態学研究センター(平成3年)、琉球大学熱帯生物圏研究センター(平成6年)、神戸大学内海域機能教育研究センター(平成7年)、島根大学生物資源教育研究センター(平成8年)、茨城大学広域水圏環境科学教育研究センター(平成9年)とセンター化の流れが続いている。京都大学生態学研究センターと琉球大学熱帯生物圏研究センターは全国共同利用研究施設であり、他は学内共同利用施設である。

 ・活動状況の表はセンター化に伴うメリットをよく表している。すなわち、センター化されたところでは、専任教官数(特に教授・助教授数)、校費予算とも倍増している。また、専任教官数・校費予算とも旧制大学と新制大学の格差は依然として根深いこともわかる。

 ・支出の項目では、多くの実験所が光熱水費や事務雑務担当の非常勤職員の人件費を負担している。これらの経費と建物や水槽等の維持管理費が今後ますます実験所経費を圧迫していくことが予想される。

 ・一方、賄いのサービスは、行っていないか受益者負担のところが多い。行二職員の新規雇用が困難な現状では、この傾向は今後さらに強くなるものと思われる。

 ・所長のメインキャンパスへの出向回数は月平均5.5回もある。専任教授が所長を併任している実験所が多いこと、その多くが学部講義を担当していることから、会議と講義を合わせると、この回数になるのであろう。

 ・研究費や設備の充実度・満足度は、予算規模に関係なくおしなべて低い。

 ・学生・院生の獲得状況と実験所の熱意は必ずしも一致しない。むしろ、学生があまりこないところほど、学生獲得に懸命な努力をしている姿が浮き彫りになった。

 

3. 教育実績

 ・学部講義 ---

 22の実験所の中、18実験所の教官が学部の講義を担当している。負担も大きいが、講義を通じて実験所の研究内容を紹介したり、その分野の関心を深めさせるなど、講義が学生獲得に大きな役割を果たしている側面も見逃せない。

 ・実習ならびに地域社会教育 ---

 21の実験所が学部実習を担当している。また、全実験所が国立大学の単位互換制度に基づく他大学向けの公開実習を行っており、担当実習数は学部と合わせて平均3.7である。このほか、ほとんどの実験所が、自然観察会、公開講座、公開臨海実習、市民大学講座など、地域社会教育活動を行っている。開かれた大学、地域に密着した大学が叫ばれている現在、実験所が地域社会教育に果たす役割は今後ますます増大するものと考えられる。さらに、アンケートには表れていないが、実習や公開講座は夏季に集中すること、実習の多くは5泊6日ないしはそれ以上の日程で行われることから、夏休みを実習や公開講座に明け暮れる実験所が多いことが伺われる。

 ・大学院教育 ---

 大学院教育も担当している実験所が多い。活動状況の項にあるように、大半の実験所に常駐の大学院生がいることからもこのことがわかる。

 

4.研究実績

 ・主要研究テーマと研究形態 ---

 実験所ごとに特色ある研究テーマをもっていることがわかる。分野も生態、分類、発生、生化学、内分泌、藻類など多岐にわたっている。研究形態も個人研究ばかりでなく、他の研究者(所内、学内、学外、国際)と共同研究を行っているところが多い。

 ・研究業績 ---

 全実験所が過去5年間に出版した欧文論文・総説数を全実験所の専任教官数で割った値、すなわち教官一人当たりの論文数を算出すると、平均10.2となる。このことは、専任教官数2〜3名の平均的な実験所でも過去5年間に20編以上の欧文論文を出版していることからも知ることができる。上記以外に、和文論文・総説なども多数あり、どの実験所もきわめて高い研究活動を展開していることがわかる。

 ・学術賞の受賞とシンポジウムの開催---

 学術賞等の受賞者は現スタッフだけで延べ11名に上る他、元のスタッフの中からは学士院賞や紫綬褒章の受賞者を輩出している。加えて、実験所を利用して教育研究業績を挙げた研究者の中からは数多くの学術賞の受賞者を出しており、実験所がわが国の基礎的生物学分野のリーダーを数多く輩出してきたことを物語る。5表に記載した以外の主な受賞を記載すると、国際生物学賞(柳町隆造)、ローマ法王庁科学アカデミーピオ11世金メダル(金谷晴雄)、文化功労者(団勝磨、金谷晴雄)、学士院賞(川那部浩哉)、紫綬褒章(毛利秀雄)、朝日賞(渡辺浩) がある。また、かつての所員や主要な利用者からは数多くの(社)日本動物学会賞の受賞者を輩出しており、金谷晴夫(1971)、吉田正夫(1972)、小林英司(1972)、岡崎嘉代(1973)、毛利秀雄(1974)、原 富之・原 黎子(1974)、渡邊 浩(1975)、柳町隆造(1977)、安増郁夫(1977)、星 元紀(1987)、長浜嘉孝(1989)、馬淵一誠(1990)、佐藤矩行(1991)、岸本健雄(1993)、鈴木範男(1994)、吉里勝利(1994)、嶋田 拓・赤坂甲治(1996)、徳永史生(1997)、山口恒夫(1997)の諸氏がいる。さらに、兵頭政幸氏と乙藤洋一郎氏が田中館賞(1986)を受賞している他、さまざまな学術賞の受賞者を輩出してきた。

 一方、多くの実験所では、得られた研究成果を発表するため学術的なシンポジウムを積極的に開催している。また市民向けにそれらの成果を分かりやすく解説する公開講座も活発に行っており、成果公開や啓蒙活動にもかなりの精力を注いでいることがうかがえる。

 

5.共同利用実績

 ・どの実験所も学内・学外機関の実習を受け入れている。一見して、東大・三崎臨海、筑波大・下田臨海、京大・瀬戸臨海に他大学の実習が集中しており、他の実験所はその地方の大学の利用が多いことがわかる。

 ・所外研究者の研究課題は多岐にわたるが、全体的な傾向として所内研究者のテーマと関連した研究課題が多い。このことは、実験所教官がその分野の研究のリーダーシップをとっており、求心力となっていることを示している。

 ・各実験所の年間延べ利用者数は平均で2,982人と大変な数になる。東大・三崎臨海の年間延べ利用者数11,523人は別格としても、大半の実験所の年間延べ利用者数が2,000人を越える。これらの数字は、実験所が生物学の教育研究にきわめて大きな役割を果たしていることを端的に示している。

 

6.関係各方面への要望

 ・各実験所の現状を反映して、身近な要望から将来展望まで多岐にわたっている。しかし、研究員・職員の拡充、設備の充実、改組、国際化など、従来要望書でも取り上げてきた要望が多く、依然として改善されていないことを示している。

 

7. 各実験所の主要論文

 ・教官数の多いところも少ないところも、最大5編に絞って収録した。それでも発表論文のジャーナルの傾向、論文の公表形態など各実験所の傾向をある程度つかむことができる。この項の総括は上記研究業績を参照していただきたい。

                       平成10年3月

                       自己点検評価検討部会長
                       新潟大学 野崎眞澄