The Ring of Intergenomicsインターゲノミクスの輪

核ゲノムと核ゲノムの不調和を導く要因の解明にむけて

宅見薫雄

パンコムギ(Triticum aestivum)は高等植物によくみられる倍数性進化(polyploid evolution)の代表例で、その系統進化については非常に詳しく解明されています。パンコムギでは同一核内に3つの異なるゲノム(A, B, D)が共存していて、異質六倍体(allohexaploid)と呼ばれます。パンコムギの種形成は人為的に再現できますが、両親となったマカロニコムギ(Triticum durum)とタルホコムギ(Aegilops tauschii)の組合わせについて、うまくいく組合わせとうまくいかない組合わせがあります。特にF1雑種において、ネクロシスやクロロシスなどの個体の生存を阻害する遺伝因子について明らかにしたいと考えています。

また、雑種が成立してもゲノムが複二倍体化(allopolyploidization)しなければ、倍数種としては成立できません。ゲノムの倍化に伴って、さまざまな遺伝子発現の変化が起こるようです。遺伝子ネットワークが複雑に組み合わされたり、遺伝子のエピジェネティックな不活性化が起こったり、遺伝子の欠損が起こったりします。このような複二倍体化に伴うジェネティック/エピジェネティックな変化は、両親の形質を人為的に育成した合成パンコムギで発現させることでチェックできます。異質倍数化の初期過程ではどんな遺伝子発現の変化が起こっているのでしょうか?

異なる核ゲノムと核ゲノムが織りなす出来事を明らかにしていく、そんな中で栽培植物コムギのもつ魅力に迫りたいと思っています。