The Ring of Intergenomicsインターゲノミクスの輪

RNAサイレンシングによるいもち病菌の感染機構解明

 我が国の主要作物であるイネの重要病原菌の一つにイネいもち病菌があります。いもち病は、Magnaporthe oryzaeという糸状菌(カビ)の一種が起こす病気ですが、冷夏の際には深刻なダメージを稲作に与え、すでに記憶は薄らいできていますが、1993年にはタイ米等の緊急輸入の原因となっています。

 イネとイネいもち病菌はこういった経済的な重要性から、植物宿主(ホスト)とその病原菌(パラサイト)の両方でゲノム配列解析が行われている数少ない例であり、このゲノム情報による「インターゲノミクス」研究が可能です。現在、私はゲノム情報からの逆遺伝学的アプローチであるRNAサイレンシング(RNAi)を用いて、主にいもち病菌側の感染機構を中心に研究を進めています。RNAサイレンシングは、2006年のノーベル生理医学賞の受賞対象となった生物現象で、二本鎖のRNAを介した遺伝子発現の抑制機構ですが、比較的迅速に、興味の対象となる遺伝子の発現を抑制できるため、遺伝子機能を調べるツールとして現在、注目されています。下等真核生物と見なされている糸状菌(カビ)にもこの現象は保存されており、ほぼ高等真核生物と同等な機構が使われていると考えられています。

 私達はこれまでpSilentという糸状菌用のRNAサイレンシングベクターのシリーズを構築してきており、現在ではこれらのツールを用いて、特にいもち病菌の感染行動とクロマチンのリモデリングの関係に注目していくつもりにしています。また、将来的には、宿主であるイネゲノムの情報も用いたより動的な「ホスト」-「パラサイト」の相互作用をその解析対象に出来たらと願っています。