Intergenomics Seminarセミナーと勉強会

第5回 インターゲノミクスセミナー

講演タイトルと講演者

「ゲノム三重奏:シゾンの核・葉緑体・ミトコンドリア」
田中 寛 先生(東京大学分子細胞生物学研究所)
「ミドリゾウリムシ体内の共生藻の共生メカニズム」
細谷浩史 先生(広島大学大学院理学研究科)

世話人より

 2年目を迎えたインターゲノミクス研究会が主催する本年度最初のセミナーは、細胞内共生にインターゲノミクス的な光線を当ててみたいという思いを込めて企画しました。

細胞内共生と言っても、色々な程度があると思います。葉緑体やミトコンドリアというようなオルガネラも元をただせば共生バクテリアに由来しますので、いわば細胞内共生の最も"進んだ"形でしょうか。しかし、如何にオルガネラという隷属的な立場に落ちぶれようとも、彼らは未だに独自のゲノムを保持しているのです。従って、ホスト細胞とオルガネラの間にはインターゲノミクスの相互作用があり、この点を明確に意識することで生命の本質や進化のメカニズムなどを理解するためのヒントが浮かび上がりそうな予感がします。一方、上述のように"進んだ"関係になる途中の細胞内共生もたくさん例があります。つまり、あるときはホスト細胞に取り込まれて暮らすのだけれど、時には外に分かれることも・・・というような"発展途上の"関係。その場合も間違いなくインターゲノミクスの相互作用があり、それを注意深く観察すれば関係をこれからどう発展させようかと画策しあう様子を垣間見ることができそう・・・これらが今回"仕掛け人"の狙いです。

ご講演の1人目は東京大学分子細胞生物学研究所の田中寛先生。「ゲノム三重奏:シゾンの核・葉緑体・ミトコンドリア」と題して、原始的な真核紅藻シアニディオシゾン(シゾン)のゲノム機能解析の最新情報をお聞かせいただきました。シゾンには核、・葉緑体・ミトコンドリアがそれぞれ一個ずつあり、2つのオルガネラはそれぞれが自律しながら核と取引しており決して核に"支配されている"とは言えないという意味で認識を改めました。従来の遺伝学的手法に頼らず、真っ向から正真正銘のゲノム学だけによって3つのゲノムの三重奏を解き明かそうとされている先生のご研究スタイルに感銘を受けました。

2人目は広島大学大学院理学研究科の細谷浩史先生。「ミドリゾウリムシ体内の共生藻の共生メカニズム」と題してご講演いただきました。繊毛虫ミドリゾウリムシは体内に数百のクロレラに類似した藻類が共生していますが、驚いたことにこの共生藻の数は生活環や株によらず体内でほぼ一定に保たれているそうです。この数を決めるのは宿主のミドリゾウリムシか?あるいは共生藻の方か?と非常に興味を覚えました。共生藻を除去したり、逆に再生させたりと面白い実験システムの構築に関するお話が興味深く、また時に"ミドゾウくん"と研究対象を愛称で呼ばれるフランドリーな語り口に引き込まれて時を忘れ、小さいけれど大いに不思議なミドゾウくんワールドにすっかり引き込まれてしまいました。

以上、遠路お越しくださって素晴らしいご講演を披露して下さった先生方に重ねて御礼申し上げ、第5回インターゲノミクスセミナーの報告に代えます。

(世話人:吉田健一)