Intergenomics Seminarセミナーと勉強会

第14回 インターゲノミクスセミナー

講演タイトルと講演者

「育種の新パラダイム:ゲノミックセレクションによる育種の加速化」
岩田 洋佳 先生(東京大院 農学生命科学研究科所)
「海洋生物の増殖と保全における統計遺伝」
北田 修一 先生(東京海洋大 海洋科学部)

世話人より

 第14回インターゲノミクスセミナーが,平成22年11月26日(金)「これからの育種と集団遺伝学」というテーマで開催されました.これまでヒトは動植物を飼い馴らす、もしくは栽培できるように改変し、現在のウシやブタなどの家畜や穀物など栽培植物を育成してきました。そのお陰でヒトの人口が増え、文明を獲得できるようになったと言っても過言ではないと考えられます。これからも動植物の改変、育種や選抜そして進化させていくことでしょう。一方、生物の保全や遺伝的多様性の理解も急務となっています。生物の育種や選抜と保全は「ゲノムの改変」と「ゲノムの維持」につながり、「インターゲノミクス」へのどちらも大事な分野です。それぞれの分野で「ゲノミクス」のパワーを利用して、基礎研究と実践が行われています。そこで、「ゲノム情報」を使った「育種や選抜」と「保全」の先端を走っている御二方の先生に講演を御願いしました。

 岩田先生は人口爆発と情報爆発をまず提言し、人口爆発に対して、DNAやタンパク質等の有用な情報を十分に活かしきれていない現状を訴えられました。喫緊の人口爆発に対する食物の確保で最有力なのは対象となる動植物の改変ということで「ゲノム情報」を利用した「ゲノミックセレクション」の紹介をされました。この「ゲノミックセレクション」とはゲノム全体を網羅するDNAマーカーを使って、目標となる形質を予測し(つまり目標形質を実際に計測しない)、優良個体を選抜していく方法です。最初はウシで始まり、その後先生が植物を対象として、一年性のイネや永年性のスギに対する応用の可能性を検討され、出来るだけ平易に御講演下さいました。従来の育種と組み合わせると、育種作業の効率化や育種年限の短縮化が計られ、その他多くの利点があります。このゲノミックセレクションを使うにあたっては、予測モデルの重要性、収量等の改良したい農業形質評価の効率化は発展途上の現状であることをお話しされました。次回は実践された結果を御講演いただくため、再度お招きしたいと考えています。

 北田先生は人工繁殖下で生産された種苗を海へ放流し、それらを再び収穫する栽培漁業の分野でお仕事をされており、今回のセミナーでは人工種苗が自然集団に及ぼす遺伝的影響について、ご自身の研究グループで開発された調査用の理論モデルの紹介とともに、鹿児島湾におけるマダイと北海道・本州におけるニシンの例を中心にお話し頂きました。マイクロサテライトやミトコンドリアDNAハプロタイプを用いたアリル多様度の観点から、鹿児島湾内のマダイと本州のニシンでは希少なアリルが消失していることを示され、さらに、マダイにおける消失は放流事業に起因している可能性が高いが、本州のニシンにおける消失ではその可能性が低く、生息域が関与していると推察されました。また、独自の集団の混合比の推定式を用いてマダイ放流群の生息域を調査され、放流されたマダイは鹿児島湾奥にとどまり、湾外への遺伝的影響は小さいであろうと予測されました。最後には、集団の管理単位の決定の問題に対処するために考案されたFST統計量の経験ベイズ推定法を紹介して頂き、人工種苗と天然魚との遺伝的差異の評価における有用性が伺えました。

この後三宮での懇親会でいろんな情報交換が出来ました。一方、北田先生がこの日が正にお誕生日であることがわかり、急遽バースディケーキを準備していただき(中屋敷先生に深謝)、皆で唄ってお祝いをしました。

講演者からのコメント

岩田 先生

今回はインターゲノミックスセミナーにお招きいただき誠にありがとうございました。多くの学生さんや先生方にご参加いただき、また、非常に活発な議論をしていただき、私自身、大変勉強になりました。私の仕事はまさに「インター」ゲノミックスで、これまでも、ゲノム情報解析を軸に、今回お話ししましたような育種法の研究から、作物の遺伝・育種学的研究、野生植物の保全生態学的研究まで、様々な種や様々な研究領域の間(インター?)をあちこち飛び回りながら研究を続けてきました。今回は、セミナーを通して、さまざまな研究者の方々にお会いすることができ、この世界のさらなる深遠さを実感しております。多様なアイデアのわき起こるるつぼのような同セミナーが、今後も益々発展していくことを心よりお祈りしております。

北田 先生

インターゲノミクスセミナーにお招きいただきありがとうございました。セミナーは学生さんや先生方が多く参加され、この分野への関心の高さを感じました。また、2名の演者による話題提供というスタイルはセミナーの幅を広げ、私自身も大変勉強になりました。懇親会では若手の先生方と様々なお話ができ、活気と頼もしさを感じながら、楽しい時間を過ごさせていただきました。ゲノムサイエンスの様々なテーマをとりあげるこのユニークな研究会の今後の発展を願っております。

(世話人:山崎将紀・本多健)