Intergenomics Seminarセミナーと勉強会

第15回 インターゲノミクスセミナー

講演タイトルと講演者

「概日時計によるシアノバクテリア転写出力系について」
小山 時隆 先生(京都大学大学院生命科学研究科)
「気孔密度を制御する分泌性ペプチド”ストマジェン”」
嶋田 知生 先生(京都大学大学院生命科学研究科)
「葉緑体でのオキシリピンアルデヒドの生成と作用ー網羅的解析からみえてきたもの」
真野 純一 先生(山口大学総合科学実験センター)

世話人より

 第15回インターゲノミクスセミナーが12月 24日(金)15時農学部B401で行われました.今回は小山先生,嶋田先生,真野先生の3人に最新の研究成果について講演していただきました.農学研究科だけでなく他研究科からの参加者も見られ活発な議論が行われ,大変有意義な会となりました.

 小山先生は,シアノバクテリアを研究材料として概日リズムの研究を行っておられます.シアノバクテリアは概日リズムを示す最も単純な生物で,その概日リズムのメカニズムについて先駆的な研究を行ってこられました.概日時計を構成する中心的な3つのタンパク質KaiA, KaiB, KaiCの同定,さらにSasA,RpaA,CikAなどの時計の部品同士との関係がどのように解明されてきたのかを年次別に紹介いただき,概日時計の全体像が明らかになってきた過程がよくわかりました.In vitroでKaiA, KaiB, KaiCとATPがあれば時計が成立するというのが,生命現象でありながら機械的で興味深く思いました.また,植物,動物ももちろん時計を持っているがシアノバクテリアとは時計を構成している部品が異なる点も進化的に興味深いことでした.

 嶋田先生は気孔密度を制御する分泌性ペプチドのストマジェンについてご講演いただきました.気孔形成に関係するシグナリング因子はEPF1, EPF2などが知られていたが,それらは表皮細胞で発現し,気孔形成を負に制御するものでした.一方ストマジェンは光合成を行う葉の内部組織で発現し,気孔形成を促進する活性を持っていました.よって,ストマジェンは光合成活性など葉の生理状態と気孔形成をつなぐ役割を持っている可能性が示唆されます.合成したストマジェンを外から与えても,葉の気孔密度が増加することから,今後,作物の光合成能力,ストレス耐性などの改良に応用できる可能性もあると思います.また,ストマジェンの発見に至った経緯,植物が気孔を獲得するに至った進化的な側面など,興味深いお話をしていただき勉強になりました.

 真野先生は過酸化脂質由来のアルデヒド種の網羅的解析とその作用について講演いただきました.植物が環境ストレスを受けると,体内で活性酸素種が増大し酸化的損傷を受けるが,その要因の一つとして,アルデヒド種(オキシリピンアルデヒド)の重要性が明らかとなってきました.また,アルデヒド消去酵素AER過剰発現植物では環境ストレス耐性が向上することが明らかとなり,作物のストレス耐性の改良という応用面からも重要と考えられます.アルデヒドの網羅的な解析から,葉緑体では恒常的に多種類のアルデヒド種が生成していることが明らかとなり,その中でアクロレインは光合成阻害活性が高く,カルビンサイクルのPRKやGAPDHなどの酵素が影響を受けやすいことが示されました.今後のストレス耐性の改良に大変有用な情報であると考えられました.

(世話人:坂本克彦・深山浩・山内靖雄)