Intergenomics Seminarセミナーと勉強会

第17回 インターゲノミクスセミナー
「低分子ペプチドを介したインターゲノミクス」

講演タイトルと講演者

「マメ科植物の根粒菌制御機構」
内海 俊樹氏(鹿児島大学 理工学研究科)
「イネ-いもち病菌相互作用に関わる分子とその進化」
寺内 良平氏(岩手生物工学研究センター)

世話人より

 第十七回目のインターゲノミクスセミナーは、「低分子ペプチドを介したインターゲノミクス」と題して、微生物と植物の相互作用における低分子ペプチドの役割に焦点をあてた。講師には、鹿児島大学の内海俊樹先生および岩手生物工学研究センターの寺内良平先生をお迎えして、7月12日、農学部B401教室にて開催された。

内海先生からは、マメ科植物と根粒菌の相互作用についてお話があったが、従来、この共生関係は植物とバクテリアの双方に等しくメリットがある理想的関係であると考えられてきた。ところが、最近の研究で、実は根粒細胞内部で根粒菌はバクテロイドへと分化させられ、窒素固定に専念させられるようにマメ科植物によって常に「監視」「制御」されている可能性が示されている。根粒菌は言わば家畜化されているとする考え方が提示されているが、そこに介在する分子機構が不明確であるため、この真偽は未だ議論の対象となっている。 内海先生は、マメ科植物が根粒特異的にリポ多糖結合性を有する抗菌活性ペプチドを多種多数分泌することを見出し、またそれらがバクテロイドの生育を制限・制御している可能性を想定して研究を進めておられる。本講演会では、これらマメ科植物に由来する抗菌活性ペプチド分子の機能に関して、in vivo, in vitroの両面から多角的に検討を行った結果を詳細に解説してくださった。

一方、寺内先生はイネとその病原菌であるいもち病菌の相互作用について、ゲノム情報を用いたアソシエーション解析を主に話された。いもち病菌に対するイネの抵抗性は、同菌が分泌する非病原力遺伝子と呼ばれる遺伝子の産物を直接あるいは間接的に宿主側が認識することによって始動することが遺伝的な解析から明らかとなっている。寺内先生は、この非病原力遺伝子を保有するいもち病菌と保有しない菌のゲノム配列比較に、リンクマーカーと表現型のアソシエーションを組み合わせ、一気に3つの新規非病原力遺伝子を単離同定することに成功した。従来、一つの非病原力遺伝子を単離することにも数年~十年程度の時間がかかっていたことを思うと、隔世の感がある。同定された非病原力遺伝子はいずれも分泌性で比較的低分子のペプチドをコードしており、これらがイネといもち病菌の共進化の歴史でどのように変遷して来たのかという興味深い考察と共にご研究の内容を紹介頂いた。

打ち上げの席では、ちょうど夕刻の神戸市街を眺めながら、ご研究の内容や内輪話を含めてお話し頂き、楽しい一刻を過ごすことができた。

(世話人:中屋敷均、吉田健一)