Intergenomics Seminarセミナーと勉強会

第18回 インターゲノミクスセミナー
「生物間の攻防に秘められたコミュニケーション戦略」

講演タイトルと講演者

「魚病細菌、植物感染菌のクォーラムセンシング(QS)とその制御」
池田 宰氏(宇都宮大学 工学研究科)
「植物病害抵抗性機構における揮発性物質の役割」
五味 剣二氏(香川大学 農学部)

世話人より

単細胞生物である細菌も、化学物質を用いてお互いにコミュニケーションを行い特定遺伝子の発現制御を行なっている。池田 宰 先生には、この細菌間コミュニケーション機構「クォーラムセンシング(QS)」の概説を、魚病細菌や植物感染菌を例に紹介していただいた。当初、ホモセリンラクトン類だけと思われていたオートインデューサーが化学構造的に多様であることが明らかとなり、様々な生物と微生物の感染現象(相互作用)に関わっていることが示された。今後もこの分野への注目度は高まり、池田先生が進めておられる農林水産業における活用を指向した研究もますます進むものと思われる。

「匂い」はある場所に存在している物体から化学物質が浮遊し、我々の鼻孔に持つ匂いレセプターと結合して認識される。化学物質の浮遊しやすいものは揮発性物質と括られ、それらを多く持つ物体は香しい。カンキツ類は個性豊かな香りを有しており、それら「匂い」物質の機能については大変興味深い。五味先生はカンキツ類の揮発性物質が病害抵抗性に関与していることに着目して研究を進められている。活動性の乏しい植物において、揮発性物質を利用して外敵を駆逐する戦略は非常に理に適っているものと思われる。揮発性物質は取り扱いが難しいものであるが、ガスクロマトグラフィーを駆使することで、詳細な組成比の変化まで解析が可能となっている。さらにゲノム解析の進んでいないカンキツにおいて、発現プロファイリングを利用した揮発性物質生成に関わる酵素遺伝子群の比較解析も積極的に進められていた。揮発性物質がどのような仕組みで認識されているのか、その作用点についてはまだ不明な部分が多く、これからの研究に期待したい。

講演者からのコメント

池田 先生

この度は、インターゲノミクスセミナーでお話しさせていただく機会を与えていただき、誠に有難う御座いました。ゲノム間の直接的な相互作用という内容ではありませんでしたが、単細胞生物であるバクテリア間の相互作用に関わるQuorum Sensingについて、御興味を持っていただければ、また、正しく認知していただければと思い、これまでの他の研究者による研究成果も含めて御紹介させていただきました。皆様方の今後の御研究に何かしらお役に立てていただければ幸いです。また、私にとっても多くの方々とディスカッションできたことは非常に刺激になり、今後の研究推進のヒントになるような御意見も頂戴できました。科学の基本の一つは「情報の共有」であると思っております。このようなセミナーを通じて多くの分野、多様な世代の研究者が意見交換や情報収集を行なえる場は、非常に重要だと思います。今後のインターゲノミクス研究会、および、関連の皆様方のますますの御発展を祈念しております。

五味 先生

この度はインターゲノミックスセミナーにお招きいただき誠にありがとうございました。セミナー当日はあいにくの大雨でしたが、多くの学生さんや先生方にご参加いただいたことに感謝申し上げます。また、私の研究に関しても関心を持っていただくとともに、非常に活発な議論をしていただき、私自身、大変勉強になりました。今回いただいた意見は今後の研究に生かしたいと思います。また、懇親会では、普段は話す機会がない、様々な分野で活躍されている同じ世代の先生方と存分に話すことができ、大変楽しい時間を過ごすことができました。今後このセミナーに再度呼ばれることを一つの目標にして研究活動に励んでいきたいと思います。最後になりましたが、同セミナーが、今後も益々発展していくことを心よりお祈りしております。

(世話人:金丸研吾・池田健一)