Intergenomics Seminarセミナーと勉強会

第19回 インターゲノミクスセミナー
「作物の種内変異とその近縁野生種との変異から見えること」 

講演タイトルと講演者

「イネの有用QTLを発見する」
土井 一行氏(名古屋大院生命農学研究科 附属フィールド科学教育研究センター)
「種内変異から見えてくるオオムギ多様性の成立過程」
最相 大輔氏(岡山大学 資源植物科学研究所)

世話人より

 第19回インターゲノミクスセミナーが、平成23年11月11日(金)「作物の種内変異とその近縁野生種との変異から見えること」というテーマで開催されました。今回は植物に属する穀物の育種と変遷を中心とし、その過程でのゲノム構成の変化を絡めて話題提供したいと考えました。B101の部屋の椅子がほぼ埋まるくらい聴講者が多く、特に学生・大学院生が多かったことが非常に嬉しかったです。

 土井先生には、研究の基礎となるQTL(量的形質遺伝子座)解析について、QTLのことを聞いたことが無い学生にも理解し易い詳細な説明をしていただきました。イネの収量を増加させるQTLをクローニングした歴史を説明しながら、収量に関わる単離されたQTLを例示されました。現在先生は収量増加に直接関わるイネの穂の様々な形質について注目されています。今まで見たことがないような大きな穂や籾が沢山着いている系統を分析に用いました。QTL解析と戻し交雑を駆使し、育成された系統の画像解析も活用した分析が紹介され、QTLとその表現形質への結果が非常にわかりやすかったです。人口爆発への対策としてイネの収量を上昇させたいと目的を先生は掲げており、今後の研究成果に期待したいと思います。

 最相先生には、オオムギの種内分化について、その研究の背景や方法論の基礎まで丁寧に解説していただきました。栽培植物の起源や栽培化初期の品種分化の問題について、これまで着実に重ねられた成果を段階追ってお話ししていただくことで、深みのあるプレゼンをされたと思います。イントロでの遺跡の壁画等に描かれたオオムギから、遺伝子の塩基配列に基づくSTRUCTURE解析などの最新の解析法まで、いずれも興味深く聞かせていただきました。今後のオオムギ育種へとつながる話題もあり、一層の研究のご発展を楽しみにしたいと思います。

講演者からのコメント

土井 先生

 セミナーでは、説明に一生懸命で、お客様のリアクションを見る余裕がなかったですね。まだ修行が足りません。形質評価の重要性を強調する内容にしてみましたが、私も、もっと生物をよく見るという原点について考え直しております。
 わざわざセミナーに参加下さったということで、皆様の熱心な感じが印象に残りました。私の大学での講義もあれくらい聴いてくれるといいのですが。。。QTLや穂の形の話で、遺伝子の機能とかの話はまったくしませんでしたが(最相先生も)、その点は少し物足りないひとも多かったかもしれませんね。「こんなことができるんだ」と思って下さったなら、ちょっとうれしいです。

最相 先生

 この度は,インターゲノミックスセミナーにお招き頂きありがとうございました.以前より神戸大学の学生さん,先生方はじめ研究に関わる大勢の方の研究/教育に対する高い意識に大変感銘を受けておりました.毎回活発な議論が交わされるインターゲノミックスセミナーに学外から数回参加させて頂いておりましたが,今回は話題提供と言うことで声をかけて頂きました.
 全ゲノム解析が可能となり遺伝育種の分野でも研究環境は大きく様変わりしてきましたが,私が研究対象としているオオムギは約5,000Mbの巨大ゲノムを持つ一方で,世界中で広く栽培されている作物で,ゲノム解読も精力的に進められています.数年後には劇的に研究基盤環境が変わると予想される今,研究の方向性を定めていくことが大切と考え,日々の研究に取り組んでいます.
 今回のセミナーでは皆さんにオオムギの種内変異を今後どういう視点で解析していくかを紹介させて頂きました.私自身は今回もまた,神戸大学の研究者の高いモチベーションに刺激を受けましたが,そういった研究者の皆さんに,少しでもオオムギの研究の魅力が伝えられたら幸いです.
 今後のインターゲノミックスセミナーの益々の発展を心よりお祈り申し上げます.

(世話人:山崎将紀・宅見薫雄)