Intergenomics Seminarセミナーと勉強会

第25回 インターゲノミクスセミナー
「植物生育圏における微生物の多様な生存戦略」

講演タイトルと講演者

「土壌の特異な機能・・・なぜ万物を分解し万物を化育できるのか」
篠原 信氏(野菜茶業研究所 安濃本所)
「炭疽病菌の植物感染戦略とエフェクター」
高野義孝氏(京都大学大学院農学研究科)

世話人より

第25回インターゲノミクスセミナーは「植物生育圏における微生物の多様な生存戦略」というテーマで2名の講師をお招きしました。台風のニアミスにより、あいにくの天気となってしまいましたが、参加していただいた聴衆の皆様には感謝申し上げます。特筆すべきは、前日に生命機能科学序説という1回生向けの講義がありましたので、本セミナーを紹介したところ、1回生が多数参加してくれたことです。この好奇心を保ち続けて将来研究に打ち込んでもらいたいものです。

 篠原先生は、養液栽培において従来までの大原則となっていた無機・無菌条件から脱却する有機・有菌条件で構成された「有機養液栽培」の可能性について講演されました。このコンセプトは、篠原先生がこれまで学ばれた醸造分野において発酵がコントロール可能であるならば養液環境も操作可能であるはずという強い信念からもたらされたものでした。一度成立した微生物バイオフィルムは、病原菌ですら立ち入ることのできない強固なものとなり、病気の心配も不要となりました。このバイオフィルム構成微生物と成立過程について、新たな展開が期待されます。

 続いて、高野先生は、炭疽病菌が病原性を確立するために重要な役割を果たしているエフェクターにフォーカスを当て、病原菌と宿主との間にエフェクターが分泌される場として新規インターフェースの存在について講演されました。また、宿主とエフェクター間の共進化について、異なるレベルの抵抗性機構であるPTI (PAMP-triggered immunity)とETI (effector-triggered immunity) が介在するジグザグモデルを解説して頂きました。ジグザグモデルに関与する多様なエフェクター群が、どれだけの種類のインターフェースを介在して分布されているのか興味が持たれます。炭疽病菌は複数種のゲノム解読が完了し、興味深いエフェクターが多数見出されており、さらなる研究成果が期待されます。

講演者からのコメント

篠原 先生

 このたびはインターゲノミクス研究会にお招き頂き、ありがとうございました。
以前から共生微生物等がゲノムを欠落させ、重要な機能を宿主に依存する現象などに興味を持っており、「ゲノムは異種生物との関係を見据えなければならない」と感じていただけに、この研究会にお招き頂いたことを大変光栄に感じております。
有機質肥料活用型養液栽培(長い名前ですね)は、複合培養系で微生物群を培養することで成功をおさめた技術です。もし微生物を単離培養しようとしていたら、この技術はまだ成功することはなかったでしょう。もしかすると、単離培養が不可能な微生物が重要な機能を果たしている可能性を捨てきれないからです。複合培養系だったからこそ、再現の難しかった硝酸化成を実現できたのだと思います。
しかし、複合培養系といっても闇雲に培養すればできるというものではなく、それなりのノウハウの蓄積がなければなりません。複合培養系は、単離培養とは異なるノウハウを開発する必要があります。現時点で抽出できたノウハウとして、「構造的選択圧」と「選択陰圧」を紹介しました。複合培養系を制御するノウハ・Eが蓄積されていけば、単離培養の微生物では達成が困難であった、自然環境での微生物制御も可能になってくるでしょう。
若い皆さんが、複合培養系を科学のまな板にのせて下さることを期待しています。

高野 先生

この度はインターゲノミクスセミナーにてお話する機会をいただきありがとうございました。
当日は台風の接近を心配する中、たくさんの方々にお話を聞いていただき、そして様々な観点でのご質問をいただき、大変有意義な時間を過ごすことができました。また、篠原先生の大変興味深いお話をお聞きすることができたのも、大きな収穫でした。懇親会では、研究会メンバーの先生方が分野の枠を越え、大変アクティブに交流されているのを目の当たりにして、インターゲノミクスという名のとおり、この研究会が研究者間の架け橋的役割を担っていることを実感していました。
病原菌のエフェクター研究は、植物と病原菌の壮絶なバトル、その果てにある共進化をあぶりだす大変ロマンティックでエキサイティングなものです。エフェクター研究は、私たちのグループの中では比較的最近になってスタートしているものであり、まだまだこれからという感じではあったかとは思いますが、今回の私の発表で、このエフェクター研究の魅力を少しでも皆様にお届けできていたらとてもうれしいです。

(世話人:池田健一・中馬いづみ)