Intergenomics Seminarセミナーと勉強会

第26回 インターゲノミクスセミナー
「エピジェネティックな遺伝子発現制御機構-哺乳類のX染色体不活性化を中心に-」

講演タイトルと講演者

「核マトリクスタンパク質hnRNP UとRNAによるクロマチン制御」
中川真一氏(理化学研究所 基幹研究所)
「バー小体の正体-SMCHD1-HBiX1複合体によるヒト不活性化X染色体の凝縮-」
長尾恒治氏(北海道大学 先端生命科学研究院)

世話人より

第26回インターゲノミクスセミナーが,平成25年11月22日(金)15:10より農学部B101で行われました。今回のテーマとして,エピジェネティックな遺伝子発現制御機構としてよく知られている 「哺乳類のX染色体不活性化」を中心に,理化学研究所から中川先生と,北海道大学から長尾先生をお招きして,講演していただきました。

 中川先生は,ノンコーディングRNAに着目して研究をされており,その中の一つX染色体不活性化に関わるXist RNAの局在化に核マトリクスタンパク質hnRNP Uが必要である,との最近の研究成果について話されました。会場内の学生の割合も多かったことから,研究背景として「エピジェネティクスとは?」「ノンコーディングRNAとは?」について,比喩を交えながら非常に分かりやすく説明されました。また,Xist以外の核内ノンコーディングRNAやそれら分子の核内構造物との関係についても興味深いお話をたくさんして頂きました。

 長尾先生は,質量分析機や次世代シーケンサー用いたクロマチン分子の研究を通して,つい最近発見された,バー小体(折り畳まれた不活性化X染色体)の形成に関わる新規タンパク質HBiX1-SMCHD1について話されました。X染色体上に排他的に偏在する2種類のヒストン修飾部位(H3K9me3とH3K27me3)に,HP1タンパク質とXist RNAを介してHBiX1とSMCHD1がそれぞれ特異的に結合し,両者が複合体を形成することによってX染色体が折り畳まれるという説は,バー小体の形成機構を分子レベルで見事に説明するもので,非常におもしろい発表内容でした。

講演者からのコメント

中川 先生

 今回はエピジェネティックな遺伝子発現制御,ということがお題でしたが,どちらかというとノンコーディングRNAの生理機能,という観点の話題が中心になってしまい,少々的外れの感になってしまったかもしれません。ノンコーディングRNAの研究はまだ定跡の整備が進んでおらず,完成度の低いサイエンスだなあという印象を持たれてしまったかもしれませんが,こういう世界もあるのだということを知っていただければ嬉しく思います。なお,多様な専門分野の方々がこのようなセミナーシリーズで顔を合わせ,討論をする場を作っているということは大変素晴らしいことであると思います。願わくば,懇親会ではスタッフの方だけでなく,学生さんなどとも交流してみたかったです。ミキサーみたいな感じで,セミナー会場でそのまましばらく懇談,なんていうのはいかがでしょうか?

長尾 先生

この度は,インターゲノミクスのセミナー,懇親会に呼んでいただき,ありがとうございました。私の前に話された中川先生が,エピジェネティクスやX染色体不活性化の背景の話を非常にわかりやすくされた後だったこともあり,データを中心に話させていただきました。鋭い質問や,予想外の質問にたじろぐところもありましたが,私の好きな手法である質量分析器や次世代シーケンサーを使ったエピジェネティクス研究の一つを紹介できたことを嬉しく思います。今後も,このようなさまざまな分野の方が集まる会をきっかけとして,お互いの視野を広げていければと思います。

(世話人:李 智博)