Intergenomics Seminarセミナーと勉強会

第30回 インターゲノミクスセミナー
「非モデル植物や見えにくいものを研究する」

講演タイトルと講演者

「非モデル植物の遺伝学~ソバの二花柱性関連遺伝子(S-ELF3)の同定を中心に~」
安井 康夫 先生(京都大学 農学研究科)
「ゲノム育種による環境オンデマンドな根系改良」
宇賀 優作 先生(農業生物資源研究所)

世話人より

 今回でインターゲノミクスセミナーは記念すべき30回目を数えるまでになりました。今回は、研究者人口は少ないものの非常に大事な、植物(今回はソバ)と評価が大変な形質(今回は植物の根)に精力的に取り組まれている先生方に話題提供を御願いしました。その後の懇親会には学生が6名も含めた21名が参加し、研究を含めた色んなお話ができました。

 安井先生はソバを用いて、雌蕊と雄蕊の長さが異なることで自家受粉を防ぎ他家受粉を促進する「二花柱性型自家不和合性」のメカニズムの解明に取り組んでおられ、参加者にとってあまりなじみのないソバやニ花柱性について丁寧に説明して下さいました。安井先生は雌蕊の短い個体に特異的な自家不和合性の関連遺伝子を発見されるなど、日本の二花柱性型自家不和合性の研究の第一人者であり、今回最新の研究成果を聞く機会となり、普段あまり聞く機会のないテーマでしたので、参加者にとって有意義なセミナーであったと思います。

 宇賀先生は植物の根やその形態に着目し、イネゲノム情報を活用しながら丁寧な遺伝解析や材料育成と野外での実証試験を行ってこられ、その内容をわかりやすくご紹介いただきました。特に遺伝子単離まで完遂し有望なDro1遺伝子はイネだけでなく、他の植物への応用展開が見えてきそうです。その他にも有望な遺伝子がありそうで、宇賀先生の研究グループによる耐旱性の付与に向けた大きな貢献が期待されます。植物育種事業による基礎から出口までの実現が明確に示されたと思いました。

講演者からのコメント

安井 先生

この度は栄えある第30回講演にお招き頂き、ありがとうございました。
 今回は作物としてのソバを紹介するため、ソバの世界での利用例、育種上の問題点、近縁野生種の情報等について話題提供し、さらに我々が注目している二花柱型自家不和合性の最新のトピックスを提供させて頂きました。ただ、まだまだソバの自家不和合性の「制御機構」ついては分かっていないことだらけで、こちら方面の話を期待された方には肩すかしを食わせてしまった気がしております。現在、ChIP-Seq解析や突然変異集団を用いたTILLING解析を実施しておりますので、ここから新たな知見が得られると思っております。その折には、是非とも再登場させて頂ければと願っております。第50回大会への出場を目指して頑張ります。

宇賀 先生

この度はインターゲノミクスセミナーにお招きいただき、ありがとうございました。大学生や大学院生の方も参加されたので、わかりやすく発表しようと努めましたが、どうだったでしょうか。発表内容は、根が深いほうが干ばつに強いという単純なメッセージなのですが、それを証明するためには遺伝子単離から圃場での調査まで様々な実験に取り組む必要があることが伝わったなら幸いです。ゲノム育種の面白いところは基礎研究が育種へとつながるところです。自分が取り組んだ遺伝子が品種改良に利用できるというのはやりがいのある研究ではないかと思います。今回のセミナーでは皆さんから遺伝子の機能というよりは深根性になることのメリット、デメリットなど応用面での質問をより多くいただいました。今後、皆さんの疑問に答えられるような研究へとさらに発展させていきたいと考えています。

(世話人:吉田康子・山崎将紀)