Intergenomics Seminarセミナーと勉強会

第31回 インターゲノミクスセミナー
「生物間相互作用がもたらすゲノム変化」

講演タイトルと講演者

「イヌのゲノム研究 -ゲノムが変える獣医療の未来-」
桃沢 幸秀 先生(理化学研究所・ゲノム医科学研究センター)
「カメムシ類の生活を支える共生細菌 -その生物的機能とゲノム進化-」
細川 貴弘 先生(九州大学大学院・理学研究院・生物科学部門)

世話人より

 第31回インターゲノミクスセミナーが、平成27年1月28日(水)に農学部B401教室で開催されました。今回は「ゲノム解析」をテーマに、理化学研究所よりイヌのゲノム医療の研究をされている桃沢先生、九州大学より昆虫の共生細菌のゲノム進化を研究されている細川先生をお招きしました。それぞれ異なる分野の研究にも関わらず、お二人ともに非常にわかりやすくご説明いただき、参加していただいた多くの教員や学生さんも興味深く拝聴することができたのではないかと思います。

 桃沢先生はイヌの遺伝性疾患の原因遺伝子の同定を目的として、ヨーロッパの研究機関が中心となって行われたLUPAプロジェクトの概要および成果について紹介いただきました。ゲノムワイドな関連解析に必要なサンプルやデータが整えば、疾患を支配する原因遺伝子あるいは染色体領域の特定を短期間で行うことができ、今後の治療に生かすことが期待されます。しかしながらそうような応用段階においては、解析を行った研究者と獣医師などの医療機関関係者の相互理解と協力体制が必須であり、ゲノム解析の成果を実用面で役立てることの難しさをあらためて実感しました。神戸大学には獣医学部がないため、こういった動物医療のお話は、参加者にとって非常に新鮮で興味深い講演だったのではないでしょうか。

 神戸大学理学部生物学科出身の細川貴弘先生は、在学中に、 今の研究材料のひとつであるマルカメムシに出会ったそうです。クズの葉を好むこの昆虫は、今でも神大のキャンパスにたくさんいるようです。多くの昆虫は、共生細菌を菌細胞に閉じ込めているのですが、マルカメムシの共生細菌は、腸内にいます。マルカメムシは、産卵時に卵と一緒に共生細菌がつまったカプセルを葉に産み付けます。その模様を印象ある動画で解説していただきました。昆虫体外での共生細菌の垂直伝播は、非常に珍しいそうです。細川さんは、この特徴を生かして、マルカメムシのカプセルと姉妹種のカプセルを交換し、共生細菌の宿主特異性を見事に証明されていました。また、トコジラミとその共生細菌の研究紹介では、飼育の難しさを面白おかしく説明されていました。トコジラミは、ウサギの血を好みますが、羊の血はだめだそうです。 このトコジラミの共生細菌は、寄生性細菌のボルバキアの一種であり、ボルバキアの常識を覆すものでありました。このボルバキアが、水平伝播で別の細菌から共生に必要な因子を獲得したという証明に、ゲノム解析の威力を感じました。

講演者からのコメント

桃沢 先生

インターゲノミクスセミナーにお招きいただきまして、ありがとうございました。イヌの疾患のゲノム研究について、お話しさせて頂きました。ヒトのゲノム研究は盛んに行われており、その成果が医療に還元されつつありますが、イヌはその恩恵をより直接的に受けるべき動物と考えています。今回の発表で皆様にその点がお伝えできていれば幸いです。普段頂かないような他分野からの質問も非常に参考になり、今後も獣医療に繋がる研究を遂行し、またお招き頂けるように頑張りたいと思います。また、一緒に発表させて頂いた細川先生のお話は、理研や自分が参加しない学会ではまず聞かない話でしたが、わかりやすくお話しいただけ大変興味深かったです。

細川 先生

このたびはインターゲノミクスセミナーにお招きいただきどうもありがとうございました。私の講演ではマルカメムシとトコジラミという二種のカメムシの共生細菌について、特に生物的機能とゲノム進化に焦点を絞ってお話させていただきました。嫌われ者の虫達ですが、体の中ではすごく面白いことが起こっているんだということをお伝えできていれば本望です。講演後には多くの質問を出していただいて、私としてはとても参考になりました。また、久しぶりに神戸の街を歩き、久しぶりの方々とお会いすることができ、さらに新たな出会いもありで大変有意義な一日となりました。現在は別のカメムシの共生細菌を中心に研究を進めており、その成果と魅力をまた皆さんにお話できることを願っております。

下の動画は細川先生から提供いただいたマルカメムシの産卵の様子です。卵と一緒に腸内共生細菌を閉じ込めた黒いカプセルを規則正しく産みつけ,幼虫は孵化するとそれを吸うことにより,親の腸内共生細菌を受け継ぐそうです。

(世話人:笹崎晋史・吉田健太郎)