Intergenomics Seminarセミナーと勉強会

第35回インターゲノミクスセミナー
「植物の環境適応戦略:進化の過程で獲得した巧妙なメカニズム」

講演タイトルと講演者

「植物の成長を制御する葉緑体型緊縮応答」
増田 真二 先生(東京工業大学 バイオ研究基盤支援総合センター)
「基部植物ゼニゴケから考える植物の繁殖戦略」
石崎 公庸 先生(神戸大学大学院 理学研究科)

世話人より

 第35回インターゲノミクスセミナーが平成28年1月19日15時10分から農学部B101にて行われました。今回のセミナーのテーマは「植物の環境適応戦略:進化の過程で獲得した巧妙なメカニズム」とし、東京工業大学から増田真二先生、神戸大学理学研究科の石崎公庸先生をお招きしてご講演いただきました。

 増田先生には「植物の成長を制御する葉緑体型緊縮応答」というタイトルでお話いただきました。緊縮応答と呼ばれる細菌に普遍的に保存されている遺伝子発現制御・ 代謝調節に関与する酵素の遺伝子が植物のゲノムに保存されており、それらは、葉緑体の機能制御を通じて植物の成長を統括的にコントロールしていることを発見された最近の研究について、LCMsMs分析を利用したppGppの蓄積量の解析から、組み換え植物を利用した機能解析など多岐にわたる研究手法による 分析結果を交えてご紹介いただきました。

 石崎先生には、「基部植物ゼニゴケから考える植物の繁殖戦略」というタイトルでお話いただきました。ゼニゴケは、世間一般の認識では、その生息する環境から邪魔者扱いされたりして、同じコケと呼ばれても、苔の洞門で知られるエビゴケのような存在とは異質な印象でした。私の子供の頃の記憶でも、見た目がグロテスクな印象がありました。それは杯状体が目玉のように見えて、たくさんの目で見つめられているように感じていたのかもしれません。しかし、培地で育てられたゼニゴケの写真はとても美しいものでした。その杯状体の形成機構について、分子生物学的な解析が行われ、関与する遺伝子の一つは被子植物における腋芽形成を司る転写因子であることを突き止められました。このような発見は、モデル生物の立ち上げに関わる研究者の醍醐味だと思います。ゼニゴケには、被子植物におけるシグナル経路の主要な遺伝子はほぼ全てが揃っているものの、シングルコピーのものが多く、冗長性はほとんど認められないようです。ゼニゴケは、まさに植物が陸上で進化・繁栄した原点(基部)に位置しており、今後もさらなる興味深い発見が期待されます。

講演者からのコメント

増田 先生

 このたびは伝統ある神戸大学農学部の「インターゲノミクス研究会」にお招きいただきありがとうございました。今回、葉緑体の代謝や遺伝子発現を制御する緊縮応答と呼ばれる機構を紹介する機会をいただきましたが、異分野の学生に対しては、もう少し葉緑体に関する基礎的な部分を織り交ぜて話を構築すればよかったかな、と反省しております。緊縮応答に関連する遺伝子は動物にも見つかっており、そのあたりの話ももう少ししたほうがよかったかもしれません。しかし緊縮応答は細菌から真核生物に至る普遍的かつ重要な細胞機能調節機構である点は理解いただけたのではないかと思います。新幹線を降りたら猛烈な六甲おろし、を体感したとても寒い日にもかかわらず、多くの学生やスタッフが足を運んで下さり、神戸大学農学部の闊達な雰囲気を感じました。懇親会もとても楽しかったで す。このような会を是非継続していってほしい、と強く思いました。

石崎 先生

 この度は、インターゲノミクス研究会でお話する機会をいただきありがとうございました。庭の嫌われ者「ゼニゴケ」を材料とした研究の話題ということで、様々な分野の研究者の方々に興味を持っていただけるか心配はありましたが、セミナー後や懇親会で、多くの方々からご質問やご議論をいただき、私自身、大いに刺激を受けました。発表時間が質疑応答も含めて1時間も頂けたということで、「何故、ゼニゴケなのか?」というところも含めてお話出来たのが、とても嬉しかったです。また同じ会で発表された増田先生のお話も大変興味深く、大いに勉強させていただきました。さてゼニゴケ研究ですが、ゲノム解析も佳境に入り、様々な研究基盤も整備され、ようやく軌道にのったかなと思います。5年後、10年後に、ゼニゴケからどのような事が分かっているのか?植物の進化がどのように理解されているか?ワクワクしながら日々の研究に取り組んでいます。そのようなタイミングで再登場して、何かお話することができることを目指して頑張りたいと思います。

(世話人:松岡 大介、池田 健一)