Intergenomics Seminarセミナーと勉強会

第1回 インターゲノミクス特別セミナー

講演タイトルと講演者

「コムギにおけるプラズモン(細胞質ゲノム)分析」
常脇恒一郎 先生(京都大学名誉教授・元福井県立大学学長)

世話人より

 このセミナーは、平成19年12月から農学研究科植物遺伝学研究室に共同研究者として来られている常脇先生をお招きして、植物遺伝学研究室とインターゲノミクス研究会の共催として行われた。インターゲノミクスのメンバー数名の研究テーマでもある「植物の核-細胞質間のインターゲノミクス」を話題として取り上げていただいた。セミナーには教員と学生が50名ほど集まった。

 「コムギにおけるプラズモン分析」と題して発表していただいたセミナーでは、常脇先生がライフワークとして取り組んでこられたコムギの核細胞質置換雑種の育成と、細胞質ゲノムの遺伝的分化からみたコムギ・エギロプス属の系統進化、細胞質ゲノムのコムギ育種への取り組み、そして最近のコムギ葉緑体ゲノムとミトコンドリアゲノムの全塩基配列決定から見えてきた両オルガネラゲノムの特徴について1時間半にもわたって熱く語っていただいた。その後の質疑も30分以上行われた。

 コムギ・エギロプス属は、2倍体レベルでのゲノムの分化、及び異種間交雑とその後の染色体倍加による異質倍数性進化の研究材料として古くから扱われてきた。2倍体レベルでの核ゲノムの分化に伴ってオルガネラゲノムも分化しており、このことはパンコムギの細胞質を近縁種の細胞質に置き換えた場合に、パンコムギではみられない様々な表現型が認められることからも明らかである。常脇先生はこの核細胞質置換系統を網羅的に育成され、そこからコムギ・エギロプス属の倍数種の成立過程を母親と花粉親を区別して明らかにされた。また近縁種の細胞質への核ゲノムの親和性と稔性回復遺伝子についての遺伝学的解析や、これらの系を基にしたコムギ育種への応用について膨大な成果を上げておられる。これらの常脇先生が長きにわたり取り組んでおられる研究内容は、まさに核とオルガネラゲノムのインターゲノミクスである。基礎研究から育種という応用研究まで、インターゲノミクスのもつ裾野の広さを改めて認識させられたし、今後取り組んでいかなければならない様々な現象がすでにそこにあることを実感した。

 普段のインターゲノミクスセミナーでは、若手の研究者の方を中心に招いてその最新の研究成果をご報告いただいてきた。今回の特別セミナーでは、常脇先生の40年にわたる研究を総括していただいたもので、若手研究者では醸し出せない深い味わいを参加した誰もが感じたことであろう。ご自宅の庭で続けられている交配実験の今後の計画までお話しくださったが、本物の研究者のサイエンスへの取り組みと飽くなき知的好奇心にはただただ頭が下がる思いだった。

(世話人:宅見薫雄)