国際ワークショップ「北極海のガバナンスと海洋法」において、今後の共同研究のテーマが明確になりました

Lalonde教授の基調講演YouTube動画

ワークショップ全体を通底するテーマとして、法の支配が、引き続き北極海のガバナンスを基礎づけており、法的安定性と予見可能性を維持していることが理解されました。Suzanne Lalonde教授の基調講演は、北極海における延長大陸棚の申請とその扱いにつき北極海沿岸5ヶ国が、他国の申請に「抗議」することなく延伸大陸棚委員会に情報を提供しその勧告を待っており、国際法に基づく今後のいくつかのシナリオについて解説がなされました。ロシア・サンクトペテルブルグ大学Alexander Sergunin教授による「2018年中央北極海無規制公海漁業防止協定の実施」と題する報告でも、ロシアを含む10締約主体が、これまでのところ、コンセンサスでその実施に向けた作業を進めていることが紹介されました。従って、地政学的状況の変化は北極海のガバナンスにも影響があることは必須ですが、同時に、北極海のガバナンスを基底する法の支配の存在を忘れてはならないことが強調されました。
ワークショップ全体を通底するもう一つのテーマが、北極海のガバナンスとグローバルな法制度との深化する相互作用でした。特に、西本健太郎教授の「中央北極海における海洋保護区とBBNJ協定の影響」と題する報告は、現在交渉の大詰めを迎えている国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)に関する国際条約がどのような内容になり得るのか、そしてその内容がどの程度、中央北極海の公海部分のガバナンスに影響を与えうるのかについて、海洋保護区(MPA)を主な題材に検討しました。
このワークショップでは他に、北極海のガバナンスに関する中国の研究者の見方を知る上でも有益でした。上海交通大学のDan Liu准教授は北極先住民族について、米国ハミルトン大学のYuanyuna Ren研究員は2016年南シナ海仲裁判決の北極ガバナンスへの示唆について報告を行いました。シンガポール経営大学のNengye Liu准教授は、後半セッションの司会を務め、討議にも活発に参画されました。
2020年6月に始まったArCS IIプロジェクトもちょうど中間地点を迎え、今回のワークショップは、これまで国際法制度課題が培ってきた研究成果とネットワークを基礎に企画、開催され、今後の研究課題とその検討の方向性を明確にすることができました。特に、北極海のガバナンスとグローバルな法制度との相互作用は、今後はBBNJ条約の妥結を契機に、2018年中央北極海無規制公海漁業防止協定の実施と、北極海域におけるMPA設置の議論との関係で、極めて重要な研究課題になり得ることが認識されました。
記事原文:A. Stella Ebbersmeyer
デンマーク・コペンハーゲン大学博士課程学生
神戸大学PCRC研究員(2023年1月31日〜3月14日)
国際ワークショップ Arctic Ocean Governance and the Law of the Sea 公式ウェブサイト: <http://polarresearch.org/arcs2_lawoftheseas_2023/>