2024年3月19日 プレスリリース

ArCS II国際法制度課題から、最近注目を集める北極における海底ケーブルの保護についてまとめたファクトシートを発表

ブリーフィングペーパー・シリーズ
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2023年10月、フィンランドとエストニアをつなぐ海底通信ケーブルが、ガスパイプラインと同時に破損した事件は記憶に新しいかと思います。これまでも海底ケーブルが何らかの理由で破損する事故・事件はありましたが、ロシアによるクリミア併合及びウクライナ侵攻後、破壊工作への対処を含む海底ケーブルの保護が重要な課題として認識されてきています。今回発表されたArCS II国際法制度課題「ブリーフィングペーパー・シリーズ」第10号(英語)は、北極における海底ケーブルの敷設状況及び計画と、それらケーブルを守るための法制度の現状について、2名の専門家がわかりやすく解説しています。

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海底ケーブルは、北極圏において、地域社会の多様なニーズに応え、地域間のつながり(コネクティビティ)を促進し、地域社会の経済的社会的発展に重要な役割を果たしています。北極におけるケーブルネットワークの整備は、インフラが未整備であることや、厳しい気象条件、ケーブル船の運用上の課題、経済性の問題など、様々な課題に直面しています。その中にあってもいくつかの海底ケーブルは運用を開始しており、4つの北極圏横断ケーブルプロジェクトが開発中です。しかし、国連海洋法条約をはじめとする既存の国際法や国内法は、海底ケーブルの保護を適切に行う上では課題を有しています。

第10号では、ArCS IIの国際法制度課題から防衛大学校准教授の石井由梨佳氏と、同国際政治課題から北海道大学准教授のユハ・サウナワーラ氏が共同で、北極圏における海底ケーブルが直面する課題、現在進行中の北極圏横断海底ケーブルプロジェクトの現状、沿岸国の国内法および政策の現状、そして国際協力のあり方と安全保障上の課題などについて紹介しています。国内法では、大陸棚へのケーブル敷設と維持、妨害行為に対する罰則などが規定されています。しかし、領海内の海底ケーブルを積極的に保護したり、意図的なインフラ破壊行為から生じる安全保障上の問題を抑止したりするのに十分な対応はなされていないと指摘します

北極圏で展開されている海底ケーブルプロジェクトのあり方は、地政学的現実も反映しています。ロシアが2014年にクリミアを併合し、2022年にウクライナに侵攻して以来、北極圏における国際協力は困難に直面しています。このファクトシートは、北極評議会がこの問題に取り組むフォーラムとしては限界があることを指摘し、代わりに、北大西洋条約機構(NATO)が最近設置した重要海底インフラを調整する機関についても紹介しています。さらに、日本とEUが2023年7月に署名した、安全で強靭な海底ケーブル接続を支援するための協力覚書にも注目しています。


著者紹介:

石井由梨佳 (いしい ゆりか)

防衛大学校准教授。専門は国際公法と海洋法。ArCS II国際法制度課題メンバー。

ユハ・サウナワーラ (Juha SAUNAVAARA)

北海道大学准教授。北極海のデジタルインフラについて幅広く執筆。ArCS II国際政治課題メンバー。


<関連情報>
■ ArCS II国際法制度課題ブリーフィングペーパー・シリーズ
 < https://www.research.kobe-u.ac.jp/gsics-pcrc/ja/arctic/press_release/j_briefing_papers.html>