研究内容(トピックス)

DNA損傷応答を制御するチミンDNAグリコシラーゼの新たな機能を解明

ゲノムDNAの損傷の中には自然発生するものも数多く知られており、塩基の脱アミノ化はその代表的なものの一つです。特にシトシンや5-メチルシトシンは脱アミノ化を起こしやすく、それぞれウラシル、チミンに変化することでG:CからA:Tへの突然変異を引き起こします。チミンDNAグリコシラーゼ(TDG)は脱アミノ化によって生じるG:U、G:Tミスマッチをを解消し、自然突然変異の抑制に寄与する塩基除去修復酵素として同定されました。一方、プロモーター領域のCpG配列におけるシトシンの5-メチル化修飾は遺伝子発現を抑制することが知られていますが、TDGはDNAの脱メチル化を介して遺伝子発現制御にも関与することが最近明らかにされてきました。

私たちは、ヌクレオチド除去修復経路でDNA損傷認識因子として働くXPCタンパク質複合体がTDGと相互作用し、TDGが開始する塩基除去修復反応を促進することを報告しました。一方、TDGがXPCとの相互作用を介してヌクレオチド除去修復や細胞のDNA損傷応答に何らかの影響を与えるのかどうかはわかっていませんでした。今回私たちは、細胞内でTDGを過剰に発現すると紫外線に対する細胞の感受性が上昇すること、この効果は塩基除去修復活性を欠損した変異TDGでは見られないことを見出しました。TDGを過剰発現することで一部のXPCが塩基除去修復経路に動員される結果、ヌクレオチド除去修復活性が低下した可能性が考えられますが、試験管内ヌクレオチド除去修復反応系にTDGを添加しても修復反応の阻害は見られません。さらに次世代シーケンサーを用いたRNA-seq解析により、TDGを過剰発現した細胞では大規模な遺伝子発現の変動が引き起こされること、この現象にはTDGの塩基除去修復活性は必要とされないことが明らかになりました。以上の結果は、TDGによる遺伝子発現制御機構を理解する上で新たな知見を与えるとともに、TDGがヌクレオチド除去修復と遺伝子発現の制御を介して多面的に細胞のDNA損傷応答に関与している可能性を示唆するものと言えます。

(本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究(S)の支援により実施されました)

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