講義・セミナー

学術講演会のお知らせ

以下のセミナーを開催いたします。

日 時 : 2024年11月26日(火) 午後 4時〜
場 所 : 神戸大学・理学研究科C棟 C509セミナー室
講 師 : 松本 翔太 博士(東京大学・定量生命科学研究所)
演 題 : クライオ電子顕微鏡応用技術による細胞内DNA修復機構の理解

講演要旨

生物の設計図とも呼ばれるゲノムDNAは、世代を超えて安定に維持されることが生命にとって極めて重要である。このゲノムDNAは環境中のさまざまな要因により絶えず損傷を受け続けており、生物は常に遺伝子の変異リスクに晒されている。代表的な損傷源として紫外線が知られており、紫外線はDNAの塩基を架橋することによりその化学的性質を大きく変化させる。この紫外線損傷はDNAの複製エラーや転写停止を誘発し、がんの原因となり得るため速やかに除去する必要がある。哺乳類に備わっているヌクレオチド除去修復機構は、紫外線など幅広い損傷を取り除くDNA修復機構の一種であり、UV-DDBタンパク質複合体が損傷認識に重要な役割を担っている。一方、細胞内においてゲノムDNAはヒストンタンパク質に巻き付いたヌクレオソームとして機能しており、ヌクレオソームが数珠状に連なったクロマチン構造を形成している。このクロマチン構造はゲノムDNAへのアクセスを制限するため、DNA修復タンパク質の活性を阻害すると考えられてきた。しかしながら、実際にDNA修復タンパク質がクロマチン構造上の紫外線損傷をどのように認識しているかについては不明な点が多く、詳細な分子基盤の解明が期待されている。
 今回我々はクライオ電子顕微鏡とChIPを融合したChIP-cryoEM技術を用い、細胞内においてクロマチン上の紫外線損傷に直接結合したUV-DDB複合体の立体構造を決定することに成功した。この結果より、ヌクレオチド除去修復機構において、クロマチン上に生じた損傷を直接修復する経路の存在が示唆された。興味深いことに、UV-DDB複合体はヌクレオソーム上の複数箇所において損傷に結合し得ることが見出されたが、その中の一箇所だけ安定な複合体を形成する可能性が示唆された。本セミナーでは今回のChIP-cryoEM技術で得られたUV-DDB複合体の立体構造から機能制御、DNA修復における立ち位置など詳細な分子基盤を発表したい。加えて、クライオ電子顕微鏡技術を応用し、細胞内のタンパク質のin situ可視化技術も開発している。まだ発展途上の技術であるが、細胞内におけるクロマチン構造の可視化に成功しており、得られた知見を共有したい。

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