講義・セミナー
学術講演会のお知らせ
以下のセミナーを開催いたします。
日 時 : | 2024年12月13日(金) 午後 3時30分〜 |
場 所 : | 理学研究科C棟 C509号室 |
講 師 : | 川西 優喜 博士(大阪公立大学・理学研究科) |
演 題 : | 身近な変異原物質による遺伝毒性発現の分子機構 |
講演要旨
生活環境中の化学物質による遺伝毒性発現機構を、大気汚染物質と腸内細菌産生物質を例に、私たちの研究成果を交え紹介する。国際がん研究機関(IARC)は大気汚染をGroup1、「ヒトに対する発がん性が認められるもの」として分類している。私たちは大気汚染物質の一つ、3-ニトロベンズアントロン(3-NBA)に注目し、この多環芳香族炭化水素に由来する複数のDNA付加体とDNA複製・変異誘発の関係を解明した。ほ乳類細胞内で3-NBAは、DNA塩基と代謝物であるアミノベンズアントロン残基の結合部位が異なる複数のDNA付加体を生じる。これら化学構造の異なるDNA付加体のヒト培養細胞での生成量、DNA修復効率、損傷乗り越えDNA複製(TLS)効率と変異誘発率を測定し、各付加体の突然変異への寄与を推定した。また近年、ヒト腸内細菌叢中に、「コリバクチン」とよばれる比較的小分子の遺伝子損傷性毒素を産生する大腸菌が存在することがわかってきた。炎症モデルマウスにコリバクチン産生菌を感染させると大腸発がんが惹起されることや、大腸がん患者の腸内細菌叢には高頻度にコリバクチン産生菌が検出されることなどから、コリバクチン産生菌は新たな大腸発がん因子として注目されている。最近、コリバクチンの化学構造や生合成経路の解明が進んだが、研究の多くが欧米でおこなわれている。腸内細菌叢は食事や生活習慣など文化や環境にも依存することから私たちが実施した日本人の腸内細菌のin vitro遺伝毒性試験の結果等も合わせ、解明されつつあるコリバクチンの遺伝毒性発現メカニズムを概説する。